「アトム・アシモがロボット殿堂入り!」
ロボット・ホール・オブ・フェーム2004
 
CMU ETC 伊是名宥樹  
 
 去る2004年10月11日から14日の4日間、日本では無人ロボット自動車や、アメンボ型ロボット開発等のロボット研究で有名なカーネギーメロン大学(CMU)において「ロボットと思想」と題したロボット工学研究所創立25周年記念行事が開催された。この4日間、記念式典や研究所の研究成果発表だけではなく、研究所の見学会や企業向けのセミナー、講演会も行われ、アメリカ国内のみならず世界各国からロボット関連の研究者や開発者がピッツバーグに集まった。私はロボット開発に携わっているわけではないので講演会等には出席しなかったが、記念行事初日に行われたロボット工学研究所とエンターテイメント・テクノロジーセンターの共同主催による第2回「ロボット・ホール・オブ・フェーム(The Robot Hall of FameTM))(以下ロボット殿堂)( http://www.robothalloffame.org/)の就任式に通訳として参加した。
Fig.1 アシモとジェームス・モリスCMU
西海岸キャンパス学長(右)
 今回表彰され殿堂入りを果たした5台のロボットのうち2台はなんと日本からの殿堂入りだった。ロボットアニメの元祖「鉄腕アトム」と本多技研工業が開発した世界初の人間型自律2足歩行ロボット「アシモ(Fig.1)」が見事選出され、ロボット王国日本の存在感を示す格好になった。その式典に合わせて、日本からは手塚プロダクション社長の松谷孝征氏とご夫人が出席され、通訳としてご一緒する機会に恵まれた。小さな頃から「マジンガー」シリーズやドラえもん等のロボットアニメが好きだった私にとって、「ロボット殿堂」就任式で子供の頃にみた懐かしい鉄腕アトムの映像を見たり、更に松谷ご夫妻とご一緒する機会に恵まれたことは本当に素晴らしい経験であり、一生忘れられない思い出となった。今回は、日本でもまだあまり知られていないこの「ロボット殿堂」を紹介したいと思う。
ロボット・ホール・オブ・フェーム(ロボット殿堂)
 「ロボット殿堂」設立の公式発表は、AIBOのロボットサッカーで知られる「ロボカップ」の第一回アメリカン・オープン(2003年4月30日から5日間)の初日の式典にてジェームス・モリスCMU西海岸キャンパス学長(元コンピュータサイエンス学部長)によって行われた。世界的なロボット工学技術の卓越性を認識し、ロボット業界に強い影響を与えてきた映画や物語に登場する架空のロボットや、すでに実世界で活躍し、画期的な業績をあげたロボットなどに栄誉を与えることを目的とし、カテゴリーは“サイエンス・ロボット”と“サイエンスフィクション・ロボット”の2つに分れる。
 審査員は、CMUによって毎年召集される。第1回目はロボット工学者や人工知能の研究者を中心に選出され、CMUの研究者をメインに日本人ロボット研究者1人を含む計10名であったのが、今回の第2回目は、CMUのロボット工学者だけではなく、作家、デザイナーや企業家など様々な顔ぶれの日本人ロボット工学者2人を含む計17人となった。第1・2回目の日本人審査員は、国際ロボカップ委員会委員長を務める大阪大学大学院工学研究科の浅田稔教授で、今回の第2回目にはCMUロボット工学研究所の元所長であり、産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センター所長の金出武雄教授が加わった。
 ここの人選はなかなかユニークで、米国を中心に世界的に最も大ヒットしたPCゲーム「シムシティ」や「シムピープル」等の「シムシリーズ」生みの親であり、米・マクシス社のプロデューサーのウィル・ライト氏が審査員に入っていたりする。実は、ライト氏は大のロボット好きなようで、「バトルボッツ(Battlebots)」(日本で行われている「ROBO-ONE」という二足歩行ロボットの格闘技大会の元)という米国で行われているロボット格闘技大会に自らもロボットを製作して参加しているそうである。ロボット関係者ではないので、ロボットを審査する立場となると少し物足りない気もするが、人気ゲームプロデューサーがどのような視点でロボットを審査するか非常に興味深い。
 
ロボットのノミネーションと審査
Fig.2 Optimus Prime
 ロボットのノミネーションはというと、実はこれといって特に参加資格が要求されることはなく、「ロボット殿堂」のサイトで誰でもノミネートできるのである。「科学的なものであるか」あるいは「フィクションであり、娯楽性が高いか」ということがノミネートの規準である。あと、自分が推薦したいロボットがすでにエントリーしている場合は投票することも可能である(一人1票まで)。すでに2005年度第3回目の「ロボット殿堂」ノミネーションは始まっており、現在日本でもテレビ東京系放映されているテレビアニメ「トランスフォーマー」(1月に始まったシリーズ名は「トランスフォーマーズ・ギャラクフォース」)の中の「コンボイ」(米国では「Optimus Prime」)が現在投票1位となっている。それ以外には、イギリス・BBCのカルト番組「Dr. Who」の犬型ロボットK9や、ソニーのAIBO、映画「ショートサーキット」のジョニー5、そしてファミコンの周辺機器として20年前に発売された「任天堂・ファミリーコンピューターロボット」など“フィクション”から“リアル”まで現時点で約50台のロボットがエントリーしている。一般からのノミネーション終了後、CMUによって召集された審査員によって殿堂入りロボットが選出される(4月〜6月頃)。審査員の持ち票は10票で、どのように組み合わせて投票してもよい。そして10月頃カーネギー科学センターで殿堂就任式が行われる。
 ミーハーな私は早速、アーノルド・シュワルツネッガーが就任式に出席するかもしれないという単純な理由で、映画「ターミネーター」に投票した。しかし、あのロボットが好きというわけではない。映画「アンドリューNDR114」でロビン・ウィリアムスが演じたアンドリューの方が気が優しくて好きだ。そして、やはり一番のお気に入りはやはりウィル・スミス主演「アイ、ロボット」のサニーである。それでは何故サニーをノミネートしなかったかというと、サニーはCGなので殿堂入りしても声優、あるいはデザイナーには会えるかもしれないが、サニーには会えないだろうと計算してしまったからだ。こんな不純な動機で投票されると殿堂の品位が低下しそうである。
 
殿堂入りしたロボット達
 第1回目に殿堂入りしたロボットは次の通りである。NASAの開発した火星探検車「ソジャーナー(Sojourner)」、1961年に米国で開発された世界初産業用アームロボット「ユニメイト(Unimate)」、映画「スターウォーズ」のR2-D2、そしてこちらも映画「2001年宇宙の旅」宇宙船ディスカバリー号のコンピューター「ハル(Hal)9000」。アニメの影響が強いためか、「ロボット」というとどうしても私は「人間型」「二足歩行」という発想に結びつく傾向があるので、箱型コンピューターのハル9000が殿堂入りしたのは少し驚いたが、自ら自分をプログラムしたり、宇宙船を制御するという自意識を持った機械ということを考えると、ハル9000は手足こそ無くても宇宙船と言う体を備えた立派なロボットと言えるのだろう。
 第2回目の殿堂入りは5台。名誉な事にそのうち2台は日本のロボット、アシモと鉄腕アトムである。アシモのような二足歩行ロボット技術は日本がトップであり、アシモはその先駆者としての功績が認められ殿堂入りをした(実は、二足歩行ロボット開発が盛んなのは、ロボットアニメの盛んな日本だけであり、日本以外の国ではあまり活発ではない)。一方、鉄腕アトムは「アストロボーイ」と言う名前で欧米でも有名で、米国でなんと1963年(日本放映と同じ年!)から1年間米NBCによって放映され、ジャパンアニメーションの先駆けとなった。その40年後である2004年に新シリーズもスタートし、米国の根強いファンを喜ばせたのは記憶に新しい。そんなアトムの殿堂入りの原動力となったのは、アトムがロボット大国日本を築きあげた研究者達に最も強い影響力を与えた「ロボットアニメの元祖」であったからである。それが殿堂審査員に認められ今回見事殿堂入りを果たしたのだ。
 鉄腕アトムとアシモ以外の第2回目の殿堂入りロボット達は、米SRI インターナショナル社が開発した世界初の人工知能ロボット「シェーキー(Shakey)」、映画「スターウォーズ」のC-3PO、そして1956年に製作されSF映画に最も影響を与えていると言われている映画「禁断の惑星(Forbidden Planet)」のロビーであった。
ロボット殿堂就任後は、ピッツバーグにあるカーネギー科学センターに永久的に保存されることになっている。まだ実際足を運んでいないので、どのように展示されているかわからないが、通常の展示方法ではなく、鑑賞者を教育し更に楽しませるようなインタラクティブな展示形式を目標としているということである。
 
アトムの殿堂入り:「ロボット殿堂2004」就任式
Fig.3 松谷氏がアトムの主題歌を披露
 さて、「ロボット殿堂」就任式。第1回目は100名程度の関係者のみで行われたようだが、第2回目は式典を開催しているロボット工学研究所の25周年記念行事の一つとして行われたこともあり、会場には200名以上のロボット、大学、プレス関係者がつめかけ、会場となったカーネギー科学センターのハイマーク科学ステージは満席で立ち見がでるほどであった。
 式典は「映画の中のロボット」をテーマに、映画に登場したロボット達を年代順に紹介した映像で始まった。まず、各殿堂入りしたロボットの紹介映像が5分ほど流れ、ロボットの推薦者(審査員)がステージで推薦理由を述べる。そして、その後にロボットの制作者あるいはロボットを演じた俳優が「ロボット殿堂」の創立者であるジェームス・モリスから盾を受け取るという手順で5台の就任が行われた。
 鉄腕アトムの就任では、故・手塚治虫氏の代理ということで手塚プロダクション社長の松谷孝征氏が盾の受け取りと挨拶を行った。「アトムは、ロボットでありながら人間の心を理解し、科学を悪用しようとする人々に悩み、そしてロボットと人間の狭間で常に苦しんでいた。手塚治虫は鉄腕アトムを通して科学の力を間違った方向に使うと人は破滅するという警鐘をならしたかったのである。」と鉄腕アトムが単なる科学のヒーローではなく、もっと深い意味があることを述べ、さらに「漫画ということで学校のPTA等から目の敵にされていたアトムが最高学府であるCMUで殿堂入りとして高く評価されることは光栄であり、CMUでもアトムのような心を持った科学者を生み出して欲しい」と挨拶を締め括った。また、冒頭で紹介された映像で使われた歌が最新作の主題歌であったので、往年のファンのためにと挨拶の中で松谷氏は鉄腕アトムのあの懐かしいオリジナルの主題歌をステージで披露した(Fig. 3)。満員の会場からは松谷氏の歌に合わせて大きな手拍子が沸き起こり、故・手塚氏のメッセージが鉄腕アトムを通してしっかりと人々に伝わったような、そんな瞬間であった。
 就任式には「スターウォーズ」のC-3POを演じたイギリスの俳優アンソニー・ダニエルズ氏も出席し、会場のスターウォーズファンを沸かせた。第1回目殿堂就任式にはR2-D2を演じたイギリスの俳優ケニー・ベーカー氏が出席したようだが、たぶんファンとしては彼らが並んでいるところが見たかったことであろう。私は特に「スターウォーズ」の大ファンというわけではないが、一応「スターウォーズ」は全作品見ているので、彼が歩いている姿を始めて見た時は「あ!C-3POだ」とおもわず感動した。
 
「ロボット殿堂」の相乗効果
 式典の4ヶ月前、第2回目の殿堂入りロボットの発表が2004年6月に映画「アイ、ロボット」の国際完成報告記者会見の席で大々的に行われた。その会場となったのはなんと私の通っているCMUのエンターテイメントテクノロジーセンターであった。この記者会見には世界各国から50名程の記者が訪れ、日本からも映像クリエイター/ジャーナリストの大口孝之氏、LAで活躍する映画監督細谷ヨシフミ氏が参加していた。この記者会見には映画「インディペンデンス・ディ」や「ダークシティ」などの美術担当で知られるパトリック・タトポリスがパネルとして出席し、「アイ、ロボット」のコンセプトアートの説明を中心に会見が進められた。
 このような記者会見がハリウッドではなく、エンターテイメント系産業とはあまり縁のないピッツバーグで行われた理由は、実は「ロボット殿堂」にあった。「アイ、ロボット」を制作した20世紀FOXの国際広報部門長は、CMUが主催している「ロボット殿堂」とロボット研究で世界的に有名なロボット工学研究所の存在に着目し、映画を発進させるのにふさわしい場所はCMUしかないと考え、記者会見場所に選んだのである。会見自体は大学のロボット研究者が参加したため、タトポリス氏の話を除くと映画の内容とは少し離れお堅い話中心になってしまったので残念であったが、このような行事が行われると地域のエンターテイメント産業の活性化につながることが期待出来、ピッツバーグでエンターテイメント関連業界に関わっている私としては、今後「ロボット殿堂」を通してまたこのような行事が継続してCMUで行われることを願いたい。
 
 「ロボット殿堂」は、時代の先駆者となり現実世界で活躍する優秀なロボット達と、それらの研究・開発に携わった研究者や科学者に強く影響を与えた小説や映画、そしてアニメ・マンガのロボット達の功績を称え、米国ピッツバーグにあるカーネギー科学センターに永久展示されるという、科学的、エンターテイメント的さらに教育的にも非常に意義のあるイベントであり、大学関係者だけなく地域の人々にとっても地域活性につながる素晴らしい行事である。特に、エンターテイメント業界や教育関連に興味のある私にとっては、アニメや映画のような娯楽として捉えられてきたものが、世界でも著名な米国の高等教育機関の行事の中で脚光を浴びることは非常に嬉しいことであり、これらをきっかけに、科学と教育を関連付けたエンターテイメント行事をもっと行ってほしいと願っている。
 最後に、この行事を通して手塚プロダクション社長の松谷氏と奥様にお会いし、短い間ではあるが色々お話が伺えたことはとても素敵な思い出となったことを付け加えたい。故・手塚氏の作品「ブラックジャック」や「三つ目がとおる」、そして「ブッダ」を愛読していた私にとって、故・手塚氏にまつわる話や、彼がアトムに込めた願いが何であったのか等をお聞きすることができて、本当に貴重な思い出となった。いつの日か、鉄腕アトムを生んだ故・手塚氏の意志を受け継いで、人間の心を理解し人間と共存してくことができるロボットが殿堂入りする日が来ることを願って止まない。