| 「日本映画とストーリーボード」 |
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| 飯干真奈弥 |
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夏学期を終えてすぐに帰国した日本で、話題の映画『ピンポン』を観た。松本大洋原作のコミックを映画化したこの作品には、すでに様々な賛辞が送られていることと思うが、この作品における明快な演出が、曽利監督というVFXのスペシャリストの手によるものだということがとても興味深い。VFXという緻密な計算の世界に身を置いてこられた曽利監督が、過剰な台詞や演出を一切省き、明確なシークエンス(物語を構成する柱)を用いて実に素直な直球を打ちこんでくるのが印象的だった。また、さらに興味深いのは、この映画が「松本大洋」という第一級のアーティストによって描かれた漫画をベースにしているという点。つまり、原作自体が非常に優れたストーリーボードとして完成されているのだ。監督自身、某雑誌のインタビューで、原作にかなり助けられたと話している。映画そのものは漫画とも違った味わいになっているが、ストーリーボードはあくまで演出案であり、それが監督に新しい別の演出方法を見出させる手段でもあるわけで、映画『ピンポン』の場合、原作が非常に理想的な演出案の役割を果たしてくれたと言えるだろう。もちろん、その原作の魅力を忠実に保った官藤官九郎氏の脚本の力も忘れてはならないところだが。
漫画を原作とした映画といえば、『スパイダーマン』の世界的大ヒットも記憶に新しい。夏学期の終わり、私が通う大学ではこの『スパイダーマン』のストーリーボードアーティストたちが特別講義を行った。気が遠くなるほど大量のドローイングと、それを基に作られたモノクロの2次元アニメーションによるプレゼンを、私たち受講者は2時間近くかけて堪能したわけだが、彼らは、実写の撮影にゴーサインが出るまでの期間、こうしたプレゼンを何度も繰り返すためだけに雇われる。そして、もしこのプレゼンがうまく行かなければ、映画の企画自体もボツになることがあるという。この内部向けプレゼンのために作られたモノクロ・アニメーションは、効果音やライティングなども加えられ、それだけで十分に楽しめるパイロット作品に仕上がっているのだが、彼らにいわせると、「映画製作のプロセスのなかで最も重要でありながら、最もお金のかかっていない部分」なのだそうだ。サム・ライミ監督という表看板の陰に、彼らストーリーボードアーティストたちが想像力のすべてを結集させて作った膨大な演出案があったのだという事実には、深く感銘を受けずに居れない。 |
映画の世界におけるストーリーボード(絵コンテ)は、1920年代にウオルト・ディズニーによってその手法が確立されたが、映画『国民の創生(1915)』などで知られる「映画の父」D.W.グリフィスは、セットやカメラワーク、クレーンショットなどすべてを事前にストーリーボードとして準備し、それに従って俳優たちにリハーサルさせたという。また『風と共に去りぬ(1939)』のプロデューサー、デビッド・O・セルズニックも、あの勇壮な南北戦争の場面に、前述したディズニーのプリ・プランニング・テクニックを多用している。さらに、オーソン・ウェルズは名作『市民ケーン(1941)』の製作にあたり、撮影のグレッグ・トーランドと一緒に、キャストやエキストラを含む主要場面や、Depth of field(試写界深度)を用いる場面などを中心にストーリーボードを作成している。このようにして、クリエイターたちの想像力を具現化するための手法としてだけでなく、映画の予算や時間の効率化、さらには撮影現場でのコミュニケーションを円滑にするためにも活用されてきたストーリーボードは、以後ハリウッド映画のプリ・プランニングに欠かせない要素として定着し、ストーリーボードアーティストなる専門のポジションも確立されることとなったのである。 |
一方、プリ・プロにあまり費用も時間もかけられない日本の映画界には、ストーリーボードアーティストという名前のポジションは見当たらない。もちろん、脚本のマージンに絵コンテを書く監督や、セットデザインを担当する美術監督などは存在するものの、ストーリーテリングのマップとして、また効率的なプリ・プランニングの一環としてストーリーボードを活用している日本の実写映画は非常に稀である。そこへきて宮崎駿を代表とする日本のアニメーションが世界的な評価を受けているのは、緻密な絵コンテ制作によってストーリーの構成やプランニングをきちんと行っているからだろう。そのような意味で日本には、漫画家やアニメーターという名の優れたストーリーボードアーティストや演出家が多数存在しているわけで、彼らの才能を実写映画にも積極的に採り入れることによって、日本映画界に新たな可能性を見出すことができるのではないだろうか。 |
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| 添付画像の出典:John Hart, "The Art of the Storyboard", Focal
Press,1999 |
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