ジョージ・ルーカス教育財団理事 山田 治氏インタビュー
 
飯干真奈弥  
 
 去る2002年10月、サンフランシスコのウェスティン・セントフランシスホテルにて、ジャパンソサエティ(日米間の相互理解と協力関係の促進のため1907年に創立されたNPO)北カリフォルニア支部による日米交流功労者への表彰式が盛大にとり行われた。この式典で、ディズニーと並び、バンク・オブ・カリフォルニア頭取時代からの日米相互理解への長年のご尽力を称えられたのが、山田治氏である。招待客のなかには、山田氏とは10年来の親しい友人である映画監督ジョージ・ルーカス氏の姿もあった。
 山田氏がルーカス氏本人から新しく設立する教育財団の理事を引き受けてもらえないか、と電話で打診を受けたのは、山田氏が銀行を退職した1991年のこと。これが、ジョージ・ルーカス教育財団(The George Lucas EducationalFoundation;略称GLEF)である。この教育財団は、ルーカス氏の私財を資本としてカリフォルニア州サン・ラファエルに設立された非営利団体で、全米各地の幼稚園から高校までにおける革新的な教育実践例などの情報を提供している。教育用映画のビデオをはじめ、WEBサイト、書籍、CD-ROM、ニュースレターといった様々な媒体を通じて、教育者、親、そして何より子供たちにとって理想的な教育環境を模索することが主な活動目的となっている。かねてから教育分野に興味を持っていたという山田氏は、日本の初等教育にも深い関心を寄せるルーカス氏の依頼を快諾し、その後10年以上にわたって財団の理事を務めている。
 今回は、ジョージ・ルーカス教育財団の取り組みのなかでも、特にルーカス氏自身が力を入れているという教育用映画製作への取り組みについて、山田氏にお話しを伺うことができた。また、バンク・オブ・カリフォルニア時代には、ハリウッドで映画産業への融資の現場にも携わっておられたという山田氏に、米国における映画融資の実態についても伺ってみた。
 
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映画館では観られないルーカスの教育映画とは
飯干: ジョージ・ルーカス教育財団が設立された背景には、米国で深刻化する不登校問題があるそうですね。
山田: そうです。日本とアメリカとでは、人種や移民の問題、教育制度など異なる点が多いですから、不登校問題といっても一概に同じ現象と捉えることはできないかもしれませんが、子供たちをひきつける授業や教育環境を実現するためにどうしたらよいか、大人たちが頭を悩ませているというところは共通しているようですね。アメリカの場合、力のある子供、やる気のある子供にはどんどん先へ進むチャンスを与えるという教育をやっていますが、その反面、様々な事情から満足な教育を受けられなかったり、自ら学校に行かなくなってしまったりする子供がいるのは確かです。ルーカスは、そういった子供たちの将来を案じて、彼なりの方法で子供らに教育を与えてやりたい、ということでこの財団を創ったようです。
飯干: 最初に製作された教育用映画、「Learn&Live」とはどのような作品なのでしょうか。ルーカス氏自身も制作に携わっておられるのですか。
山田: 「Learn&Live」は、夢を追いかける子供たちを描いたストーリーからなるオムニバス映画です。昆虫研究に没頭する少年や、歌手や医者を目指す少女たちなどが、それぞれの悩みや困難に直面しながら成長し、夢の実現に向かって新しい希望を見出すという内容になっています。もちろん、監督はジョージ・ルーカス本人が担当していますし、制作スタッフもハリウッドの一流どころを揃えて作っています。子供たちをひきつけるような面白くて魅力的な教育用映画を製作し、全米の公立学校に無償で提供することによって、子供たちに再び学習への興味を持たせたいと願っているようです。従って、映画館では一切上映していません。
飯干: とっても贅沢ですね(笑)。続編は作られるんでしょうか。
山田: ルーカス自身はそのつもりのようだけど、何しろ忙しい人だからね、あの人は(笑)。子供向けの教育用映画とはいっても、やはり作るとなると徹底的にやるわけで、当然時間がかかる。「Learn&Live」を作ったときも、他にいろいろ構想はあったようだけれど、作り出してみたらどんどん膨らんできてしまって、これはどうも無理だな、というので1時間ほどのオムニバスというかたちに落ち着いた。彼が考えていたのは、まず14、15歳の年頃の子供たちに向けた映画から始めたいということだったので、「Learn&Live」では結局その年齢層から着手したわけです。ですから、今後は、他の年齢層に向けた作品も撮っていくと思いますよ。
 
ハリウッド映画と銀行のリスキーな関係
飯干: 銀行におられたときは、映画への融資も扱っておられたそうですが、当時、銀行の業務としてはどのくらいの割合を占めていたのでしょうか。
山田: ロサンゼルスのビバリーヒルズ支店にいた頃のことですが、私がいた80年代当時で、映画産業への融資部門は約半分を占めていました。従って、融資の決定権限を持つ支店長や部門長はハリウッド業界へのコネクションが強く、また裏事情にも通じてなければなりません。当然、映画の製作過程についての知識、またヒットしそうな映画への嗅覚や判断力に長けた専門家であることも条件です。融資決定までには、キャストやクルーの実力や評判、またプロデューサーの実績なども綿密に調査するため、ハリウッド業界に関する知識、情報網の広い組織がものをいう世界でしたね。
飯干: 融資を頼みにくるのは、やはり資金繰りの大変なインディペンデント・フィルムメーカーが多いのでしょうか。
山田: そうですね。スタジオとの取引もあるにはありますが、ほとんどはインディペンデントでしたね。とはいえ、先ほども言ったように、製作者のバックグラウンドから映画の内容まで、詳しい情報を調べて審査することになるので、結局は、まるきりの新人に金を出すことはほとんどありません。しかし、過去に大きな実績がなかった場合でも、その製作者が業界で後ろ盾となる大物とパイプを持っているか、または責任を負える組織が製作に参加している場合などでは例外もあります。
飯干: では、製作者側に完成保証(注1)を要求する場合としない場合もあるのでしょうか。
山田: 他のリソースからの投資や融資の状況などを鑑みた結果、完成保証を要求しない場合もあるが、それはケース・バイ・ケース、半々と見ていいのではないかな。しかし、大ヒットと呼ばれる作品は10本に1〜2本ほどしか生まれないというハリウッドビジネスが、非常にリスキーであることは事実なので、それほど経済的な信頼がない場合は当然完成保証を求められる。それもすべて審査したうえで決定します。
飯干: では、融資開始後の資金管理や進捗管理などはどのように進められるのでしょうか。
山田: そういったことはすべて契約時に取り決めます。大抵の場合、最低でも2週間から4週間ごとに資金の消化状況などを逐一報告することを義務付けます。融資もはじめから全額、資金を提供するわけではありませんから、その報告が滞ったり、契約時の条件が実行されなかったりすれば、途中で融資を取り下げる場合もあります。しかし、映画の製作というのは必ずしも順調に予定通り進むものではないので、その場合は進捗報告のミーティングにおいて、相談の上進めていくのが基本です。
飯干: 日本ではまだアメリカのように金融機関から映画産業への融資というのは一般的ではありません。したがって、当然ながらアメリカで機能しているような完成保証制度も成立していないのですが、今後、状況は変わると思われますか?
山田: どうでしょうね。日本はいまだに土地などの不動産を担保にする融資が中心ですが、アメリカは売掛金(注2)を担保にして融資を行うのが一般的です。映画の場合も、配給権や収益分配率の優先などを条件に融資を行いますから、まったく映画がヒットしなければまるまる損失、ということだってありえます。したがって、ときには組織に損失補填を求める契約の場合もあります。ハリウッドビジネスはリスキーだとわかっているから、審査もかなり厳しく行われる。従って、不動産を担保にする融資が中心である日本では、まだしばらくは難しいだろうという印象を持っています。まあ、でもこれからは日本の銀行も少しずつ変わってくるかもしれませんけどね。
 
注1) 完成保証
映画の資金を調達した製作者が、納期までに映画を完成させることを、金融機関に対して保証する一種の保険。アメリカでは、映画への融資条件として義務付けることがある。
注2) 売掛金
販売代金に対する債権のこと。売上代金を将来回収する権利が伴う。
 


山田 治(やまだ・おさむ)氏 略歴

東京生まれ。東京大学法学部卒業後、旧三菱銀行(現東京三菱銀行)入行。
欧米諸国への赴任を経験した後、バンク・オブ・カリフォルニア頭取に就任。91年に退職後、ジョージ・ルーカス教育財団理事に就任。ほかに、米国ソレクトロン社取締役、およびカリフォルニア大学バークレー校HAASスクールオブビジネス理事、サンフランシスコ・オペラ理事なども併任している。サンフランシスコ在住。
The George Lucas Educational Foundationのウェブサイト
http://www.glef.org