「ライターズギルド・アメリカと著作権保護」
 
飯干真奈弥  
 
 1999年の大ヒット映画『マトリックス』が公開されたとき、一部の観客のなかには、この映画が1995年公開の日本のアニメ映画『攻殻機動隊 Ghost In The Shell』から数多くのコンセプトやデザインを「引用」していることに驚いた人たちもいたはずだ。『攻殻機動隊』の製作陣がこのことをまったく気にかけなかったとしても、実際にこの映画はあまりにも多大な影響を『マトリックス』に与えている。また、『マトリックス』の監督ウオシャウスキー兄弟も自分たちが『攻殻機動隊』の大ファンであることを認めている。『マトリックス』は世界中で4億6千万ドル(約550億円)という破格の興行成績を収めた。
 ディズニーアニメの歴史で最も成功を収めた『ライオン・キング』も、1994年の公開当時には「手塚治虫の『ジャングル大帝』の盗作だ!」という声が多くあがった。というのも、『ジャングル大帝』は、アメリカをはじめとする世界各国で"Kimba The White Lion"の名でテレビ放映され、世界中に愛された作品だったからだ。この世論の訴えに対し、ディズニー上層部は『ジャングル大帝』原作説を否定したばかりか、手塚治虫の名前も聞いたことが無いとコメントする。これを受け、日本の代表的な漫画家たち488人が共にその類似点を指摘し、ディズニー側に作品の原作者として手塚治虫の名を記載するよう求めたが、結局それが受け入れられることはなかった。興行収益3億1200万ドル以上を記録した『ライオン・キング』はその後ブロードウェイ・ミュージカルになり、今もロングランを続けている。
 冒頭から長々とこうした例について述べたのは、日本の漫画やアニメといったコンテンツがハリウッドの映画業界関係者にいかに注目されているかを改めて考えると共に、今後ますます日本のコンテンツが無断な引用や盗用の危機にさらされる可能性があるということを言いたいからである。では、とくにアメリカでこうしたオリジナル作品の盗用を防ぐにはどうしたらよいか、ということについて考えてみたい。
 
 
ライターズギルドはクリエーターの味方
 アメリカで作品の権利を守ってくれるのは、もちろん著作権法である。アメリカの著作権法では著作者に、(1)複製の権利 (2)流通の権利 (3)実演の権利 (4)公共展示の権利 (5)派生著作物の権利、以上の5つの権利を認めている。こうした権利は、作品が作られた時点で自動的にその作者に帰属するものであるが、(雇用契約などがある場合は除く)公的に著作権の所有者を登録し、万一の著作権侵害に備えるためには、U.S. Copyright Officeを通じて著作権登録をしておくことが望ましい。この登録手続きが遅れてしまうと、それ以前に盗用されてしまった場合には、裁判に持ち込んでも権利の主張が難しくなってしまう場合がある。とりわけ日本の著作物などに関しては、「知らなかった」と言われてしまえば、反論するための材料が乏しいために裁判は難しくなるだろう。
 U.S. Copyright Officeのウェブサイト(http://www.copyright.gov/)で調べてみると、手塚治虫の『ジャングル大帝』が正式に登録されたのは1994年5月24日となっている。『ライオン・キング』が公開されたのも1994年だから、この点でディズニー側はシラを切り通すことができたのだろう。『攻殻機動隊』(英語名『Ghost In The Shell』)にいたっては、原作者Masamune Shirowの名前では登録されていない。
 ここに、U.S. Copyright Officeを通じた著作権登録の問題点が浮かぶ。というのも、この著作権登録にはまず時間がかかる。通常は3ヶ月ほど待たねばならない。これを5日間に短縮するための特別扱いを申請するには、通常登録料30ドルに加えて580ドルの料金がかかってしまうのだ。また、弁護士を通じて申請する場合などはさらにその弁護士料もかかってしまう。万一起こるかもしれない裁判のために、そこまでして登録の手間をかける必要がないと考える人も少なくないだろう。
 そこで役に立つのがライターズギルド・アメリカ(Writer's Guild America)という団体への登録である。この団体は、1912年にライターたちが自分たちの作品への権利保護と労働環境の改善のためにthe Authors Guildという労働組合を設立したことから始まり、映画やテレビなど作家たちの活躍するメディアが広がるにしたがって、その規模も大きくなっていった。1954年に名称もライターズギルド・アメリカとなり、ミシシッピ川を境に西と東とにわかれ、それぞれライターズギルド・ウェスト支部(ロサンゼルス)、イースト支部(ニューヨーク)として活動している。今日、ライターズギルド・アメリカは映画をはじめ、テレビ、ケーブル、インタラクティブ、その他の新しいメディア産業で働くライターたちの権利や労働環境を守る役目を果している。ライターたちはこの団体のおかげで、業界での不当な解雇や利益搾取、契約不履行などのトラブルから身を守ることができる。
 そして、このライターズギルド・アメリカもまた作品登録申請を受け付けている。ここに作品を登録しておくことで、たとえそれが未完成の作品であっても、そのアイディアが誰のもので、いつ公式に登録をしたかという記録を残すことができる。この記録は、作品の所有権などをめぐって裁判になった場合などに効力を発揮する。しかも、オンライン登録サービスを使えば、会員は10ドル、非会員は20ドルで即座に登録を完了できるのだ。
 オンライン登録サービスで登録できるのは、ラジオやテレビ、映画などのメディア向けに書かれた脚本やトリートメント(ストーリーの概要)、おおまかな粗筋など。単なるアイディアのメモだけでも登録が可能であるから驚きだ。また、映画作品そのものや、サウンドトラック、舞台用の脚本、本、短編小説、詩、デッサンのようなものも受け付けてくれる。要するに、書いてあるもの、形のある創作物なら何でも登録できるのだ。ただし、登録の有効期間は5年、更新期間を含めても10年となっているから、とりあえずの登録ということになるだろうか。それでも、10年間は作品の所有権を証明してくれるライターズギルドは、クリエーターたちにとって非常に心強い味方だ。また、U.S. Copyright Officeを通じた著作権登録の手続き期間の保険として、あるいは、著作権登録をするまえの段階の単なるアイディアや未完成品を登録するのにも、ライターズギルドの利用価値は高いと言えるだろう。
 日本のアニメが輸出品として興隆期を迎えた今、ますます海外の業界関係者の注目が高まると思われる日本の数々の優れた作品の権利を、いかにして海外で守っていくかということが今後の大きな課題になることは明らかである。映像コンテンツ市場としても大きなアメリカで日本の作品の潜在的価値を守るためには、各出版社や作家たちが団結してライターズギルドへの作品登録や著作権登録を早急に行う必要があるのではないだろうか。盗用されてしまってからでは遅いのである。
  ライターズギルド・アメリカのウェブサイト
   http://www.wga.org/
 
ライターズギルドと脚本執筆ソフト
 ライターズギルド・アメリカのオンライン登録では、テキスト・データやPDF(Adobe Acrobat)、マイクロソフト・ワードといったファイル形式での提出のほか、「Final Draft」と呼ばれる脚本執筆ソフトウェア(Screenwriting Software)での作品提出も認められている。この「Final Draft」は、「Movie Magic Scrennwriter2000」(こちらはライターズギルド・アメリカ・イースト支部の公式ソフト)と並んで、全米で最も認知度の高い脚本執筆用のソフトウェアとして映像業界に広く普及している。現に私の通うフィルム・スクールにも、この「Final Draft」を利用するためのスクリーンライティング・ラボという教室があり、脚本課題の執筆にはこのソフトを使い、定式フォーマットで提出することを求められる。米国ではこの「Final Draft」の他にも、脚本家向けに作られた脚本執筆ソフトウェアが数多く発売されている。
 
(1)スタンドアローン・タイプ(単体型)
Final Draft 6 (Final Draft社、価格:199.95ドル Mac/PC)
 http://www.finaldraft.com/
Copyright (C) 2003 Final Draft, Inc.
 アカデミー賞受賞作「イングリッシュ・ペイシェント」や「リプリー」で知られるアンソニー・ミンゲラなど、多くの監督・脚本家が使っていることでも有名な代表格的存在のソフトウェア。インターフェースはマイクロソフト・ワードに非常に似ていて、舞台や映画、テレビなど様々な書式テンプレートを選んで簡単にフォーマットすることができる。この手のソフトウェアは大抵キーの使い方が決まっており、<Tab>キーを一度打つと、<Action(ト書き)>の入力開始位置にカーソルが移動し、もう一度打つと<Character(登場人物)>に移動、さらにもう一度打つと<Dialogue(台詞)>に、といった具合に、<Tab>キーひとつの操作で、マージンを自動的にとってくれるようになっている。
また、<Card View>と呼ばれる機能がついており、これを使うとシナリオの大筋をインデックス・カードなどに書いて並べ替える、いわゆるストーリー・プランニングがしやすくなる。このインデックス・カードを用いた手法は古くから米国の多くの作家たちに馴染みが深いため、執筆と同時に使える一機能として重宝がられている。
 このソフトウェアが「業界標準(Industry Standard)」として認められている背景には、前述したライターズ・ギルド登録時に受け入れられるフォーマットだということもあるが、「CollaboWriter」と呼ばれるオンライン・ツールを使って遠隔にいる作家同士がインターネット環境さえあれば、いつでもどこでも共同作業が可能になることや、PDFやAVID(編集時に字幕スーパーを入れるのに便利)、そして後述する「Movie Magic」シリーズの予算・スケジュール管理ソフトウェアなどにデータをエクスポートできることなど、ソフトとしての柔軟性が他と比べても非常に高いためだろう。またその他、各種テキスト・データのインポート、スペルチェック機能や、ページ・シーン番号の自動割振、スクリプト・ノート機能(ページ上のどこにでもポストイットのようなメモを貼り付けることができる)など、細かな機能も充実している。
 
Movie Magic Screenwriter 2000 (Write Brothers社、価格:249ドル Mac/PC)
 http://www.screenplay.com/
Copyright (C) 2003 Write Brothers, Inc.
 Screenplay Systemsから最近社名を変えたばかりのWrite Brothers社から発売されている、こちらも「業界標準」としての地位を「Final Draft」と二分する人気ソフトウェア。「ゴッドファーザー」シリーズで有名なフランシス・フォード・コッポラなど著名人ユーザーの名前や写真が推薦者として製品の箱に載っていたり、公式ウェブサイトにも多くの著名作家がコメントを寄せたりしている。この「Movie Magic Screenwriter2000」は、「Movie Magic Budgeting」「Movie Magic Scheduling」という予算とスケジュール管理のソフトウェアにデータをエクスポートし、連携して使うことができるようになっている。1990年以降のアカデミー賞ノミネート作品の80パーセント、エミー賞(テレビ界のアカデミー賞)ノミネーション作品の95パーセントがこの会社のソフトウェアを使っていると言われ、この会社自体が1994年にアカデミー賞技術功労賞を受賞している。
 ライターズギルド・アメリカのイースト支部のオンライン登録公式ソフトになっているほか、「プロジェクト・グリーンライト」(http://www.projectgreenlight.com)と呼ばれる新人脚本家・監督コンテストの公式ソフトにも指定されている。この「プロジェクト・グリーンライト」は、ミラマックス・フィルム、テレビチャンネルHBO、そして俳優のマット・デイモンとベン・アフレックがスポンサーとなっている新人コンテストで、当のマット・デイモンとベン・アフレックも、アカデミー脚本賞を受賞した「グッド・ウィル・ハンティング」を「Movie Magic Screenwriter」の旧バージョンを使って執筆したことから、その後もずっと「Movie Magic」ユーザーであることが知られている。
 シナリオライティング・ソフトとしての基本的な機能は「Final Draft」とさほど変わらないが、使い勝手はややシンプルさに欠けるところもある。値段も少し高くなっているが、無料の電話サポートを提供している。(「Final Draft」は有料。)
 
Scriptware(Cinovation社、価格:199.95ドル Mac/PC)
 http://www.scriptware.com/
Copyright (C) 2003 Scriptware, Inc.
 前出の2大ソフトウェアに比べると知名度は及ばないものの、基本的な機能面ではほぼ差はない。アップグレード版はさらに100ドル安くするなどして価格面で勝負している。当社のホームページによれば、ユニバーサルスタジオが様々なソフトウェアをテストした結果、このScriptwareが最も使いやすくニーズに応えうるソフトだと認めたとか。また、このソフトの利点の一つとして挙げるならば、分厚いユーザーマニュアルのかわりに、ナビゲーションに従ってひとつひとつ使い方の練習ができるデモ・プログラムが含まれていることだろう。これを使ってTabキーの使い方、その他の入力ルールを覚えれば、ほぼ全てのスクリーンライティング・ソフトの使い方は身につくようになっている。
 
(2)アドオン・タイプ(追加データ型)
Hollyword (Simon Skill Systems社、価格:84.95ドル Mac/PC)
 http://www.hollyword.com/
Copyright (C) 2003 Simon Skill Systems, Inc.
 マイクロソフト・ワードなどの既存のプログラムにアドオンして使うタイプのソフトウェア。設計者のビル・サイモンは映画やテレビの脚本や多くの著作を出版している作家として知られている。値段も手ごろで、上級者よりむしろ初心者向け。学生や教員なら59.95ドルで手に入る。
 
Script Werx (Parnassus Software社、価格:129ドル Mac/PC)
 http://www.scriptwerx.com/
Copyright (C) 2003 Parnassus Software, Inc.
 アメリカの人気番組「Saturday Night Live」の構成ライターたちが使っているというこのソフトウェアは、映画やテレビだけでなく、メディア業界全般をカバーする12種類のテンプレーと使いやすいインターフェースが特徴。マイクロソフト・ワードと併せて使うアドオンソフトとして設計されているため、バグやフリーズなど、作家がもっとも嫌がるトラブルがないという点が人気である。
 
Script Wizard (Stefani Warren & Associates、価格:69ドル Mac/PC)
 http://www.warrenassoc.com/
Copyright (C) 2003 Stefani Warren & Associates.
 Script Werxと同じく、マイクロソフト・ワードにアドオンして使うソフトウェアで、フォーマッティングなどの機能においてはスタンドアローン・タイプとほとんど変わらない。Eメールなどを使って共同作業をするライターたちのあいだでは、スタンドアローンのソフトを使うより、メール送信時や開封時のトラブルが圧倒的に少ないという声もある。
 
 ライターズギルドへの登録とは直接関係ないが、ライターたちの脚本執筆お助けツールには、以上のようなスクリーンライティング・ソフトの他にもいろいろと作られている。
 たとえば、西洋的なストーリーは大きく分類すると18ほどのパターンにまで絞ることができると言われているが、その18パターンにそった2000から3000ほどのストーリーのデータベースを提供し、執筆中のシナリオや粗筋の軌道修正を行ってくれるようなソフトウェアもある。こうしたソフトウェアは「Story Development」というカテゴリに分類することができるが、その代表的なものには、「Dramatica Pro」(http://www.dramatica.com/ 価格145.95ドル)や「StoryBase 」(http://www.ashleywilde.com/ 価格149ドル、)などがある。
 また、ストーリーの中に登場する主人公や敵対する相手役、あるいはサポート役などの必要不可欠なキャラクター要素を整える(Character Development)ために使うソフトウェアとしては、「Character Pro」 ( http://www.filmwareproducts.com/ 価格60ドル)などがある。こうしたソフトウェアはいずれも、西洋的なストーリーテリングの綿密な方法論にのっとって開発されており、なかには「物語の定式化、マンネリズムを生み出す危険がある」と指摘する声もあるが、ヒット作品のほとんどは少なからずこの方法論をベースとして語られているものばかりだ。古くからの方法論を用いながらも、いかに時流に乗ったテーマを提供するか、というところが勝負の分かれ目となるのだろう。
 なお、ここで紹介したソフトウェアの多くは、メーカーのウェブサイトのほかに、ハリウッドに店舗を構えるライターズ・ストアというディーラーのウェブサイト(http://www.writersstore.com/)を通じても購入することができ、正規で購入するよりも安いパッケージ価格が設定されていることもある。
 
 アメリカで、こうした様々なソフトウェアが脚本家向けに作られる背景には、彼らの地位の確立にライターズギルド・アメリカのような自治的な団体が力を持ち、脚本家の権利や就労環境の改善につとめてきた結果として、業界の裾野を広げ、脚本家を職業とする、あるいはそれを目指す人たちの人口を増やしてきたことが大きいだろう。
 日本にはこうした脚本家の煩雑な作業を単純化してくれるソフトウェアは長年開発されることがなかったが、私も大学院在籍時代にデジタルコンテンツ協会と共に開発に関わらせて頂いた「EizoWorks」(http://www.eizoworks.jp/)が、日本では初めての予算やスケジュール管理機能と連動した本格的な脚本執筆用ソフトウェアである。こうしたソフトウェアの普及は、業界の広がりと充実に当然比例するわけで、「EizoWorks」がその相乗効果を生み出す一助となってくれればと願うばかりである。
なお、「EizoWorks」についての問い合わせは、スタジオ・アロ(東京都渋谷区広尾5-17-10 イーストウエスト4階 TEL:03-5423-6101 http://www.alloe.jp/)まで。
 
最後に
 『攻殻機動隊』の押井守監督は、「この作品自体、アメリカの映画『ブレードランナー』や過去のSF小説などからの影響を受けているわけで、そういう意味ではすべての作品が何らかの影響を他の作品から受けているのだ」と東大の講義で話しておられた。事実、『マトリックス』の監督たちも日本のアニメからの影響を多く受けていることを認めているだけでなく、『アニマトリックス』というDVD作品を企画し、日本人を中心とするトップ・アニメ・クリエイター達に、"マトリックス"という仮想現実の世界とそこに住むキャラクターの活躍を、各監督のスタイルで製作するよう依頼したプロジェクトを実現させて、世界中のファンに日本アニメのクオリティの高さを紹介するのに大きく貢献した。
 一方、手塚治虫の『ジャングル大帝』はどうだろう。手塚治虫氏自身、ディズニーの大ファンであり、初期の作品にはディズニー作品の影響が大きくあらわれていると言われている。ディズニーが「手塚治虫の漫画など知らない」などと言わずに、彼の作品を参考にしたと認めていたら、手塚氏もその遺族も、もしかすると本望だと思ったかもしれない。そうした敬意と潔さこそ、日本人が大切にする美徳でもある。しかし、アメリカという国、とりわけハリウッドのような娯楽業界にはそういった美徳は通用しないようだ。作家への深い敬意とその作品の価値を、美徳では物事の進まない国で守るためにも、国際的な著作権保護の問題は今後日本のコンテンツ界でも重要な課題として取り上げられるべきだろう。