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日本の「着メロ」文化、アメリカで発信
インプロビスタ・インタラクティブ・ミュージック代表取締役 曽我 弘氏 インタビュー
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| 飯干真奈弥 |
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| アップルの街、クパティーノ |
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シリコンヴァレーにある小さな町クパティーノ(Cupertino)は、アップルコンピュータの本拠地として知られ、通称「アップル村」と呼ばれている。その昔、この周辺一帯は「ヴァレー・オヴ・ハーツ・ディライト(歓びの谷間)」と呼ばれ、見渡す限りの果樹園が広がっていたという。アップルコンピュータの名前の由来も、共同創業者のスティーヴ・ジョブズが事業を立ち上げる以前に果樹園でリンゴの採り入れの仕事をしていたことに始まり、リンゴは栄養があり、形もシンプルで美しく、そして腐りにくい、ということからそのまま社名にしてしまったのだそうだ。
今回インタビューさせて頂いた曽我弘氏がこのクパティーノで興された最初の会社、「Spruce Technologies, Inc.(スプルース・テクノロジー)」の社名も、マツ科常緑樹の総称であり、パルプの原料としても使われている「Spruce」が、世界中に広く分布し、一年中枯れないという特長をもっていることから、「枯れることなく成長して世界的企業へと飛躍できるように」との願いを込めて命名されたものだ。今から8年前のことである。社員1人でスタートしたSpruce Technologies, Inc. は、シリコンヴァレーの優秀なプログラマーをヘッドハンティングし、その後1年で世界に誇るDVDオーサリング・ツール『DVDMaestro』の開発に成功。数々の賞を獲得し、紆余曲折を経ながらも社員70人を抱える企業にまで成長した。
『DVD Maestro』は、業務用DVDオーサリング・ツールとして、ユニバーサル、コロンビアピクチャーズ、ディズニーなどハリウッドの主要メジャースタジオにも採用されている、業界では有名なソフトウェアだ。つまり、現在世界中で生産されているHollywood映画の多くのDVDソフトは、この『DVD
Maestro』の技術を使ってオーサリングされているのだ。
そして、起業から数年後、まだまだ育ち盛りであったSpruce Technologies,
Inc. を是非買いたいと申し出てきた企業があった。アップルコンピュータである。会社役員会はこれを承諾し、曽我氏は交渉開始からわずか3日目にスティーヴ・ジョブズ本人と2人だけの直接交渉でこの買収案件をまとめてしまった。2001年5月のことである。主要な社員たちはみな、曽我氏との別れを惜しみつつも、車で5分と離れていないアップルの本社へと移っていった。そしていまその技術はアップルの新商品のコアー技術として花を咲かせている。 |
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新たなる挑戦は、日本発の「着メロ」ビジネス
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そして現在、曽我氏は偶然にもかつてSpruce Technologies, Inc.があったのと同じオフィスで、再び新たな会社の経営に挑戦している。それが、曽我氏がCEOを務めるインプロビスタ・インタラクティブ・ミュージック(以下インプロビスタ)である。
この会社の成りたちが実に興味深い。4人いるスタッフのうち、2人は日本からやって来た若いプログラマーで、大学時代からバンドを組み、セミプロのジャズ・ミュージシャンとして活躍してきた。彼らは1999年、川崎市でインタラクティブ・ミュージック・ソフトウエアを提供する有限会社アコースティックを設立し、革新的な自動音楽作曲テクノロジーを利用した最初の製品『remix4U』を発売した。好きな曲を携帯電話サイトからダウンロードして自分でリミックスし、自分だけのオリジナル「着メロ」を作曲できるという『remix4U』は、日本の最大手携帯サービス企業3社、NTTドコモとVodafone(元J-PHONE)およびKDDIのオフィシャルサイトに採用されている。そして2002年、彼らは『remix4U』をグローバルマーケットに広めようとアメリカ・シリコンバレーに移り住み、曽我氏と共にインプロビスタを創立したのである。
今年の夏、インプロビスタは米携帯電話通信3位のAT&Tワイヤレスと着メロ配信契約を結び、AT&T加入の携帯電話端末向けに、利用者による編曲が可能な着メロ配信サービスを開始した。AT&Tワイヤレスは、日本のNTTドコモのi
モードに似た「mモード」と呼ばれるサービスを展開しており、インプロビスタはその中で「mobjam(モブジャム)」のブランド名で「着メロ」を配信している。現在、1日数百件の割合で新規加入契約を獲得しているそうだ。提供曲もアメリカのポップミュージックを中心に、ノキア、モトローラなど6社、12機種の携帯電話に、それぞれ約1000曲のライブラリーを持ち配信している。
AT&Tは契約が難しいことで知られているが、現在は他社とも配信契約の交渉を進めているそうだ。私が使っている携帯通信会社T-Mobileでは使えるようになりませんか、とお訊きすると、「そう、ああいう動きの早い会社とやりたいんですよ。AT&Tとの交渉は本当に時間がかかりましたから。契約までに半年もかかったんですよ」と曽我氏。
ちなみにT-Mobile社は、私がこちらに留学した昨年初夏頃からアメリカ市場に参入してきたドイツの携帯電話会社だが、アメリカでは珍しくハリウッド女優のキャサリン・ゼタ・ジョーンズをCMに起用し、一年足らずであっという間に普及した勢いのある会社だ。利用料金の手頃さも魅力で、たとえば私の入っているプランなどは、1ヶ月1000分(約16.6時間)使って定額39.9ドル、アメリカ全土が通話可能で、メールやウェブにも定額5ドルほどでアクセスし放題だ。日本で使っていた携帯電話の料金プランは確か、月額6000円ほどで約4時間弱の無料通話ができただけだったと思う。それにメールやウェブの使用料金が加算されて、毎月の請求書が1万円を越えるのは当たり前だった。それが現在では毎月50ドルもいかない。この差は驚異的だ。そして、このT-Mobile社のみならず、発展途上にあるアメリカの携帯電話市場には今、ヨーロッパやアジアからの企業がどっと押し寄せてきている。競争はこれからますます過熱しそうだ。 |
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| アメリカ人と「着メロ」 |
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「着メロ」ビジネスは日本の携帯文化を語る上で、もはや欠かせない存在となっている。1998年に日本で始まった「着メロ」ビジネスは、2000年にはカラオケの全国総売上を上回る500億円規模のビジネスに成長した。音楽CDの市場規模が1999年の5513億円から2002年の4318億円に減少するなか、「着メロ」市場はついに1000億円規模に迫っている。日本で「着メロ」市場が急拡大した理由はさまざまあるが、1つには著作権に絡む敷居が映像やイラストなどほかのコンテンツに比べて低いことがあげられる。着メロの場合は権利処理のルール化が進んでおり、1曲(45秒以内、他の機器への転送・複製不可のデータに限る)につき5円、あるいは情報量の7.7パーセントの著作権料をJASRAC(日本音楽著作権協会)へ支払えばよいことになっている。
この日本発の画期的な「着メロ」ビジネスは、ヨーロッパやアジア各国にも広がっており、世界の着メロ市場が2007年までに10億ドルに達するという予測もある。そして、この「着メロ」ビジネスがまだスタートしたばかりなのが携帯ビジネス後進国のアメリカだ。現在1億2320万人いるアメリカの携帯電話利用者が、Web対応携帯電話向けの有料サービスを使って「着メロ」やその他のコンテンツをダウンロードするようになるのかどうか、今後の動向が注目されている。
かつて、アメリカ人は指が太いから携帯なんて使えないとか、アメリカはパソコン社会だから携帯のメールやネットはそんなに流行らないとか、さまざまに携帯文化が広がらない理由が語られていた。確かに、私がこちらに留学してすぐの頃、こちらで売っている携帯のシンプルさ(というか無骨さ)や種類の少なさには驚いた記憶がある。また、Eメールのできる機種も限られていて、日本で使っていたフルカラー、カメラ付きの使いやすい携帯などから比べると、まるで天と地ほどの差であった。しかしその後たった1年ほどのあいだに、その状況は急速に変化してきた。携帯はどんどん小型化・多機能化し、あれだけアメリカ人に珍しがられていたカメラ付き携帯もいつのまにか登場してきた。若者を中心に、アメリカ人のなかにも日本の携帯に負けないほど小さい携帯を使ってメールをしたり、ゲームをしたり、思い思いの着メロを楽しんでいる人も少なくない。もちろん、私の周りの人たちはみな携帯を持っている。しかもみんなフルカラーだ。数年遅れではあるものの、携帯をとりまく環境は確実に日本やアジアの状況に近づいてきている。
とはいえ現在でも、アメリカで着メロなど流行らない、とするもっともらしい理由を並べ立てる人たちもまだまだ多いと曽我氏は言う。
「日本と違ってアメリカは国土が広いため、アンテナ1本でカバーできる範囲が違うからその分コストがかかってしまうのでダメだとか、1曲あたりの値段が2ドルもするようではとても流行らないだとか、そういう指摘をさせたらキリがないんです。こちらでは、日本と違ってコンテンツの権利処理が非常に複雑で、JASRACのようなところ一箇所に話を通せばよいわけではなく、すべての権利があちこちに偏在している。そういうところにも、日本の「着メロ」ビジネスのようにスムーズにはことが進まないのでは、と危惧されてしまう一因があるんです。」
しかし、様々な事情の違いはあるものの、もともと「他人と違う」ことに価値を置くのがアメリカ人。彼らにこそ、ユニークさを強調した「着メロ」が大流行する可能性は大いにあるのではないか。今のところアメリカの投資家たちも、このビジネスがアメリカで受けるかどうかまだ見定めている最中といった感じのようだが、それでも、最近は日本を含め世界中から続々と着メロ配信サービスの会社がアメリカへ進出してきているという。このビジネスに勝算を見込んでいる企業も少なくないのだ。インプロビスタでも、つい先日新たに1ミリオンほどの増資が決定したという。期待は確実に高まっている。
「確かに、アメリカの携帯市場はハードの面でもソフトの面でも日本やアジアに比べれば遅れているし、これからどのように発展していくかは誰にも分かりません。でも、これだけコンテンツビジネスの発展している国で、携帯を使ったエンタテイメントがまったく流行らない、とは考えられない」と曽我氏は言う。「もし、アメリカでこの「着メロ」文化が広がるとしたら、ビジネスの方向も日本と同じように待ち受け画面や映像コンテンツ配信にまで広がっていくことも予想されます。とくに、既成概念にとらわれない子供たちなどはゲーム機を欲しがるように携帯電話を欲しがるはずで、我々も将来的には子供たちを対象にしたマンガやアニメなどのキャラクター画像などの権利獲得も視野に入れています。」
映像技術を長年扱ってこられた曽我氏の視線の先には、やはり携帯を使った映像コンテンツ配信時代が見えているようだ。またこの他にも、インプロビスタでは現在、ビデオやコンピュータ・ゲームのバックグラウンド・ミュージーック(BGM)を自動作曲する、革新的なインタラクティブミュージック・テクノロジーも開発中とのこと。エンジニアとして長年のキャリアを持つ曽我氏の豊富な知恵と経験が、若いプログラマーたちのフレッシュな感性とエネルギッシュな開拓精神と一体となり、どこまでアメリカに新しい文化を発信していくのか
非常に楽しみである。
「私はこれまでずっと技術畑の人間でしたし、テクノロジーが要の会社をやってきましたから、このシリコンヴァレーというテクノロジー・オリエンテッドな街でビジネス展開するのは理にかなっていました。でも、今度の携帯ビジネスはまさにマーケット・オリエンテッド。私にとっても新しい分野なので、シリコンヴァレーではなく、ロサンゼルスやニューヨークなどよりエンタテイメントマーケットの発信地に、ビジネスの本拠地を移したほうがいいのかもしれないな、とも考えていますよ」
定年後は、残りの人生を使ってベンチャー起業家としての挑戦に賭けてみたい。そんな夢を抱いてアメリカへ渡ってきた曽我氏。取材後、インプロビスタのオフィス前でカメラを向けると、少年のように屈託のない笑顔で応えてくれた。 |
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曽我 弘(そが・ひろむ)氏 略歴
静岡大学工学部卒業。1974年東京大学博士号取得。32年間、新日本製鉄株式会社に勤務し退職後、1991年新日鉄の子会社Eidesign Technologies, Inc.を設立するために渡米した。しかしこの会社の成功を目前にして新日鉄は鉄鋼事業の不況から1994年にこの子会社を閉鎖した。1996年の前半日本に戻り、(株)エクシング本社のジェネラルマネージャーとして勤務。その後、1996年、DVDオーサリング・ツールの開発会社Spruce Technologies, Inc.を設立し、米国人、ドイツ人エンジニアと共同で独自の商品を開発、その製品でDVD普及の一翼を担ったあと、2001年、アップルコンピュータに売却。2002年4月、今度は若手日本人起業家と共にImprovista Interactive Music, Inc.を設立。また、Silicon Valley Japanese Entrepreneur Network(SVJEN)発起人の一人として、シリコンヴァレーにおける日本人起業家を中心にしたビジネスコミュニティのサポートにも尽力している。Japan Society of Northern Californiaボードメンバー。
1935年静岡県清水市(現在の静岡市)生まれ、カリフォルニア州Saratoga市に13年間在住。 |
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