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米国フィルムスクール留学体験記 Vol.3
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| 飯干真奈弥 |
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| 今回で3回目となるフィルムスクール留学体験記は、春学期を通じてずっと取り組んできた卒業制作の現場の様子を中心にお伝えしたい。今回私が撮った作品は30分弱ほどの短編映画だが、本格的に準備を始めた2月から4月下旬の撮影までは本当にあっという間だった。5月の頭に撮影を終えたばかりで、「ああすればよかった」と思うことは本当にたくさんあるが、今回の撮影で学んだことをあらためて総括するつもりで、まずはプリプロダクションの様子から振り返ってみたい。 |
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| 卒業制作プロジェクト |
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この卒業制作は、今学期履修した「Demo Reel」と呼ばれるSeniorの実践クラスの中で行うプロジェクトで、生徒それぞれが、脚本、監督、プロデュース、撮影、照明、編集、サウンドデザインのうち、いずれかのメインクルーとして参加しなければ卒業制作として認められない。特に、監督やプロデュースを専攻している生徒たちは、学期が始まる以前から、どんな企画を立てるか、誰に撮らせるかといった事前のアイディアを詰めておく必要がある。一番多いやり方としては、このクラスの前に必ず履修させられるシナリオ執筆のクラスで作品のアイディアを膨らませ、卒業制作へと繋げる方法だ。手っ取り早いというのもあるが、それなりに時間をかけて暖めてきた企画を実現させるには良い機会となる。
この「Demo Reel」のクラスでは、貸出しできる機材には制限がつかなくなるので、きちんと企画を立てることさえできれば、学校にあるほとんどすべての機材を最大限に活用することができる。こうした卒業制作作品は、就職活動のためのポートフォリオとしてだけでなく、映画祭に向けて本格的な作品を制作するいいチャンスでもある。学生という身分を利用すれば、フィルムやフィルムの現像代などもかなりディスカウントを受けることができるし、ロケーションを借りる場合も融通が利く場合が多い。プロダクション・バリューが自ずと良くなるわけだ。
もちろん、映画だけでなく、コマーシャルやミュージックビデオを制作する生徒も多い。これは好みの問題だけでなく、35ミリフィルムを使いたいが短編映画を撮るほど予算がない、と言う場合に、尺の短いコマーシャルやミュージックビデオの制作を選ぶようだ。今回私の撮影にも参加してもらった友人のなかには、一万ドルの予算で非常にプロフェッショナルな15秒間コマーシャルを制作した生徒もいる。またクラスの中にも、地元の売出し中のラップミュージシャンが所属するレコード会社から1万ドル強の出資を取付け、35ミリでミュージックビデオを撮影していた生徒もいた。予算の出所は様々だが、ほとんどの生徒たちが自腹を切って制作に臨むため、全員が思い通り制作できるわけではない。
一方で、「フィルムでは撮らない」という選択をする生徒たちも増えている。フィルムでの撮影にかかる手間の多さ、出費の多さは、デジタルでの撮影を経験するとバカバカしくなる、と言う人もいる。また、私のクラスの講師も、ハリウッドで主にテレビ中心に活躍してきた脚本家兼プロデューサーなのだが、圧倒的なデジタル推進派だ。わたしも基本的にはデジタルシネマ賛成派なので、そのことに全く異論はないのだが、せっかくフィルムスクールにいるのだから、今のうちに面倒なフィルムを経験しておくのも映画全体の理解を深める上で重要だろう、と思い、私はスーパー16mmで短編映画を撮影することにした。
脚本は自分で書き、監督と製作を兼ねる。といっても、両方をいっぺんにやるのは時間的にも能力的にも限界があるので、製作はもうひとり別のプロデューサーと共同製作というかたちに落ち着いた。
共同製作を引き受けてくれたのは、ニューヨーク出身の親日家ユダヤ人のシン・コーエン君。同じ大学の学生で、彼もわたしと同じくすでにNYで別の大学を卒業してからここで学んでいる。一つ目の学位は遺伝子工学だったというのだから、ちょっと変わった経歴の持ち主だ。毎週のように何かしらの撮影で忙しく飛び回っている彼。プロデューサーは学生の間でもやはり不足していて、映画製作全体を通してよく把握する知識、人脈、そして広いビジョンを持ったプロデューサーは、なかなかいない。昨年末にやはり友人の卒業制作の撮影で知り合った彼にプロデューサーを頼んだ最大の理由は、彼が学校のあらゆる部署に何故かとても顔が利くことを知っていたからだ。通常なら許可されない機材へのアクセスや、テレシネの利用時間の延長など、彼を通すだけで何かと優遇されるメリットを頼ってのこと。各部署の責任者と普段から頻繁に交流を図っておくのも、フィルムスクールではプロデューサーの仕事のひとつと言えるようだ。
さて、共同プロデューサーをつかまえたところで、いよいよ製作準備に入る。学校の機材の数は限られているため、機材のリザベーションをするためには、きちんとプリ・プロの準備をし、クラスでプレゼンテーションをしたうえで、講師の承認を得なければならない。機材を確実に確保するためには、誰よりも先にプレゼンを済ませる必要がある。もちろん、プリ・プロといっても、ファイナンスや配給宣伝プランなどはすっ飛ばし、とにかくスケジュールとキャスティング、ロケーションなどを先に決めなくてはならないところが、現実の映画製作とフィルムスクールの学生映画との大きな違いとなってしまうのだが、一つの作品に命を吹き込むためには、どれだけの準備をし、大きなプレッシャーのなかで現場での仕事を行っていかなくてはならないか、ということを肌で感じ取れた点だけでも私にとって非常に大きな収穫だった。 |
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出演料を投資する「SAG」の契約システム
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| プリプロダクションの要である脚本の最終稿を2月の一週目に書き終え、早速キャスティングの準備に入る。その前に、このレポートでもお伝えしたライターズギルド(http://www.wga.org/)へ登録。ライターズギルドの有効期限は5年間なので、特に急いでいなければUS Copyright Office (http://www.copyright.gov/)に登録するほうがいいのだが、今回は急いでキャスティングをしなくてはならないので、オンラインで手っ取り早く手続きのできるライターズギルドへとりあえず登録。すると約一ヵ月後、下のような登録証が送られてきた。 |
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| ライターズギルドアメリカからの正式登録証 |
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| キャスティングは、主にベイエリアの俳優たちに向けたウェブサイトなどを通じてキャスティングコールを行い、学校の教室を借りてのオープン・オーディションを実施。日本ではそれほど浸透していないようだが、こちらではプロ・アマ問わずネット上でのキャスティングコールがとても盛んで、キャスティングサイトによっては、登録料無料でキャスティングの告知を掲載したり、情報を閲覧したりできる。タレントやモデルが所属しているエージェントでは、日夜こうしたサイトから適当なオーディションを探し出し、ひたすら人を送り込んでいるところも多いようだ。もちろん、個人で応募することも可能だ。 |
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今回私たちは、こうしたサイトを使って告知を行い、昼と夜の時間帯に分けて総勢50人から60人ほどの俳優たちとの面接を行った。ウェブに掲載したシナリオの一部を実際に演じてもらい、時には簡単なディレクションを与えたりアドリブでの演技をお願いしたりする。
ここで作品の内容をちょっと説明すると、あるカップルのウェディングパーティに招待されたゲストたちの過去の関係を、ナラティブとインタビューのスタイルを混ぜて語るというもので、私の敬愛するウッディ・アレンやゴダールなども使っていたコンセプトを真似たわけなのだが、実際にやってみた結果、「人の真似はそんなに簡単ではない」ということをあらためて思い知ることに(涙)。
それはさておき、キャスティングコールに応じた俳優たちは「ヘッドショット」と呼ばれる宣材用写真とプロフィールなどを記載したレジュメを持参してオーディションに臨む。ウェブに掲載した台詞を完璧に覚えてくる人もいれば、エージェントに突然行けと言われて来たため、どの役をやったらいいのかすら判っていない人もいる。また、飛び込みで参加した人の良さそうな年配女性(ちなみにお婆ちゃん役の募集はない)が、持ちネタのモノログを延々と披露してくれたり、その役として想定していた以外の人種や年齢の人たちが現れて、それが案外ハマっていたりと、予想以外のことが起こるのもしばしば。
さて、オーディションに来た人たちは、基本的にフリーランスか、小さなエージェントに属している人が多いのだが、興味深かったのは、Screen
Actors Guild(通称SAG)に所属している俳優たちが多いこと。このSAGもまた、ライターズギルド同様、映画に出演する俳優たちの賃金や労働条件、引退後の生活など様々な面においてその権利を保護する目的で創設されたものだが、ちょっと面白い契約システムが導入されていることでも知られる。それは、所属している俳優たちが学生映画や低予算の自主映画などに出演する際に「出演料を製作費の一部として当該作品に投資する」という契約書にサインし、事実上は「タダ」で出演をするというもの。このシステムでは、万が一出演した映画が商業ベースに乗ってヒットした際は、俳優にもロイヤリティが支払われるべき、との主張から、製作側に巧く利用されてしまいがちな無名俳優たちのキャリアと立場を守るために考案された契約システムだ。こうした契約プロセスを経ることで、製作側も出演する俳優側も、お互いの立場と条件を明確にすることができるのだ。
また、学生映画ではあるが、Release Formと呼ばれる契約書に、メインキャストはもちろんのこと、エキストラの一人一人にまできちんとサインを求めるよう学校で指導される。この契約書は、この映画に出演するうえでの肖像権など一切の権利について、それが作品の製作者に一切帰属することを認める同意書のようなものだ。実社会の契約では、ギャランティ交渉などの出演条件に関して、製作者側とエージェント、あるいは俳優自身との間で合意し、契約成立となった時点でサインをするものだ。フィルムスクールの卒業制作のように小さな規模の映画では、出演料などで後々大きな問題に発展することはまずないが、実社会で行われているプロセスの予行演習をさせるという意味で重要視されているようだ。もちろん、きちんとそのプロセスを踏むかどうかは製作者たちの意思によるのだろうが。ちなみに、私のプロジェクトでは出演してくれたすべての俳優にサインをお願いした。 |
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| よりプロに近い現場を目指して |
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| カメラを覗き込むDP、レイモンド。 |
今回の作品でDP(Director of Photography: 撮影監督)として協力してくれたのは、フィリピンからの留学生、レイモンド・オカンポ君。彼とは去年参加したミュージックビデオの撮影時に知り合った友人のひとり。その後何度か話しているうちに、もともと編集をメインにやってきた彼が、実はカメラのほうもなかなかの腕前だということを知り、いくつか彼が35ミリで撮影したコマーシャルなどを見せてもらったりするうち、今回のプロジェクトに引っ張り込むことに成功した。なにしろ、コマーシャルやミュージックビデオの撮影と異なり、30分という尺の作品を撮るためにはそれなりに時間がかかる。また、私の脚本には合わせて10箇所近くものロケーションが入るため、撮影期間もそれだけ長くなってしまう。授業やほかのプロジェクトの合間を縫っても、かなりの拘束時間になってしまうことを覚悟でお願いするのだから、こっちもそれなりに気を遣わなければならない。
脚本を読み込み、ブレイクダウンをしたあとで、ショットリスト案をもとに何度もディスカッションをしたり、一緒にロケーションスカウティングをしたりと、彼には本当に多くの貴重な時間を割いてもらった。私より多くの撮影現場を経験している彼のモットーは、「よりプロフェッショナルな現場を」というもの。もちろん、みんなお金を貰って働いているわけではないが、仕事そのものはプロと同じ厳しさでやろう、ということなのだ。学生映画とはいえ、クルーは多いときで15人以上、カメラや照明器具、ドリーやモニター、発電機など高価大掛かりな機材も多く使用する。遊び半分の気持ちで撮影に臨んでいる人が一人でも現場にいると、時には致命的なアクシデントが起きてしまうこともある。学生だから経験が浅いスタッフが多いのは仕方がないが、一度現場に入ったらそこは戦場。心してかかれ、ということなのだ。
撮影そのものだけではない。無給で働く分、クルーの食事と交通手段(日本でいう、アゴ・アシ)はきちんと提供しなければならない。食事の時間、車輌の手配、駐車スペースの確保など、事前に確認しておかなければならないことは山ほどある。また、3度の食事だけでなく、こちらでCraft
Serviceと呼ばれるちょっとした飲み物や軽食の用意も忘れてはならない。ただでさえストレスフルな状況下で長時間に及ぶ撮影をしていると、クルーもすっかり疲労困憊し、だんだん機嫌が悪くなってくる。そんなとき、冷たいコーラやコーヒーをちょっと用意しておくだけで、気分はだいぶよくなるものなのだ。撮影を終えた今振り返ると、このプリプロダクションには時間をいくらかけてもかけすぎることはない、と思える。そして、撮影はできるだけコンパクトに。この撮影から学んだ最初の教訓だ。 |
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| (次回に続く) |
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