米国フィルムスクール留学体験記 Vol.4
 
飯干真奈弥  
 
 前回に引き続き、フィルムスクールでの卒業制作として、5月に撮影を終えた私自身のショートフィルム「Confessions」プロジェクトについてお伝えしたい。この作品は30分弱ほどの短編だが、手伝ってくれたほかの生徒たちや役者たちのスケジュールの関係上、撮影は実に12日間に及んだ。
前回はプリプロダクションのなかでも企画、キャスティング、スタッフィングなどの経緯を取りあげたが、今回は最も苦労したLocation Scouting(いわゆるロケハン)や、プロダクション全般の様子を中心に振り返ってみたい。
 
フィルムスチューデントに優しい街
 フィルムスクールのデパートメント・オフィスなどによく置いてある映画業界の新聞に、サンフランシスコ出身の新人監督のインタビューが掲載されていた。サンダンスフィルムフェスティバルで入選した彼が、そのバックアップを得て撮影した新作映画について語るなかで、「今回はニューヨークで撮影したけど、僕の地元であるサンフランシスコという街が、いかに学生映画に協力的だったかを思い知らされたよ」と話していたのが印象的だった。
昔からロケーション地としてはニューヨークにひけをとらないほど多く映画に使われてきたサンフランシスコ。確かに、街を歩けばあちこちでプロ・アマ関わらず撮影現場と遭遇することもしばしばだが、クラスの課題などで撮影をしていると、本当にいろんな人たちが「これはどんな映画なの?」とか「フィルムスクールの生徒? がんばって」などと興味津々に声をかけてくる(時にはそれが撮影の邪魔になることもあるが…)。
サンフランシスコ・フィルムコミッションのサイト
http://www.ci.sf.ca.us/site/film_index.asp
 私が自分の作品のためにロケーションを探していたときも、「フィルムスチューデントなのですが」と事情を話すと大抵は協力的に対応してくれた。図書館や公道などのパブリック・プロパティの場合は、サンフランシスコのフィルムコミッションへ届けを出せば問題ないのだが、念のために撮影予定だったサンフランシスコ市立図書館の担当者に会いに行って見ると、「あら、学生さん? それなら問題ないわよ。開館時間内なら」とあっさり許可がおりる。これがプロの撮影となるとそれなりの使用料を要求するようだが、学生というだけで複雑な手続きもなくそれが免除されるのは非常にありがたい。
 サンフランシスコ・フィルムコミッションも、フィルムスチューデントには基本的に無料で何でも相談に乗ってくれる。ちなみに、プロの撮影の場合は、ビデオやドキュメンタリーの撮影には100ドル、コマーシャルの撮影には200ドル、映画やテレビシリーズの撮影には300ドルの手数料がかかってくる。それでもフィルムコミッションに申請しておくメリットのひとつは、機材車輌のパーキングエリアをあらかじめリザーブできるということ。とにかくパーキングが難しいことで有名なサンフランシスコで、この点は特に重要だ。
 ロケーションのひとつである州立刑務所へ行ったときは、事前にクラスの担任講師から「刑務所は、たとえ外側だけを撮影するにしても許可が下りにくいと思うから別の方法を考えた方がいい」と言われていただけに、あまり期待せずに行ったのだが、ゲートを監視しているセキュリティガードに事情を話してみると、「あのラインの向こうからだったら好きに撮っていいよ」と意外にも簡単に許可が出る。やっぱり、モノは試しだ。セキュリティガードが指差した「あのライン」というのは、ゲートから50メートルほど離れた場所に引かれてある白線のことで、そこから内側は刑務所の敷地で、外側はパブリック・プロパティだから誰が何をしても良い、ということらしい。なんと単純な。
「あのラインの向こう」から撮影したサン・クエンティン刑務所
 ちなみにこの刑務所、サン・クエンティンというサンフランシスコ・ベイに面した美しいロケーションに立つ最大規模の州立刑務所で、映画『戦場のピアニスト』のロマン・ポランスキー監督の妻を殺害したことでも有名なチャールズ・マンソンがいまも収監されている。その風光明媚な立地からか「Prison in Paradise」と呼ばれているのだとか…。
 
リハーサルで活躍、メソッドアクティング
主人公アイリスを演じてくれたマリア
 ロケーションスカウティングを行うのとほぼ同時進行で、役者たちとの個別リハーサルが始まった。今回の作品に登場する役者は、エキストラを含めると全部で40人近くにのぼるが、メインの役者たちは6人。数人を除いて、すべてオーディションを行って選んだセミ・プロの役者さんたちだ。学生映画の場合、ギャラは一日に一人当たり50ドルほどが目安となるが、まったく出ない場合ももちろんある。それでも、役者の卵たちは出演した作品のコピーをもらい、それを使って自分のポートフォリオを作れるので喜んで出演してくれる。
 さて、リハーサルは毎回ダウンタウンの小さなホテルの一室を借りて行った。今回の作品の大きなテーマは「時間」。とある結婚式に招かれた招待客たちの、過去の微妙な関係を描いた作品となる。招待客のなかの一人、主人公アイリス役を演じてくれたのがマリア・マストロヤンニさん。オーディションで出会ったなかでも最も知的で直観力が鋭く、役作りにも一番熱心に取り組んでくれた女優さんだ。
 そして、もう一人の主人公ライアン役を演じてくれたクリスチャン・トーマスさん。役者をする傍ら、色んな人たちと触れ合うためにカウンセラーの仕事もしている。今回は、少し華奢で優柔不断な役柄に会う役者を探していたため(本人には言わなかったが…)、彼がオーディション会場に現れたときには「あ、この人ぴったり!」とほぼ即決だった。そのほか、相手役を演じてくれたマーガレット・ガブリエルさんといい、主人公マリアの母親役を演じてくれたローズマリー・メイシェルさんといい、今回のキャスティングでは、ほぼ全員イメージどおりの役者がオーディションに現れてくれたことは本当に幸いだった。
 そして、こうした役者たちと行ったリハーサルのなかで最も印象深かったのは、メソッド・アクティング(注1)の達人と呼ばれるJeremy Whelanが提唱し広めたWhelan Tape Techniqueを使って練習を行ったときだ。このWhelan Tape Techniqueは、メソッド・アクティングの手法としては非常にポピュラーなものだが、日本ではまだこういった手法を体系的に取り入れた演技指導を行っているところはほとんどないという。
Whelan Tape Techniqueでは、まず役者の頭を「台詞」への意識から解放させるため、ポータブル・ボイスレコーダーを使って「台詞」をすべて録音する。そしてそれを頭から再生して、役者は自分の声に聞き入りながら表情と造作だけで演技をする練習をするというもの。言葉という足枷から解き放たれたとき、役者の感情はどこへいくのか、どこから伝えられるのか、それを役者と一緒に試みていくという手法だ。必修科目である演技指導のクラスでは、こうしたメソッド・アクティングの各手法を毎週学び、実際に自分たちの作品を制作するさい、リハーサルなどで活用できるように指導される。
 今回のリハーサルでは、主に作品中に挿入される登場人物たちのインタビューシーンを練習する際に、この手法を取り入れた。話をわかりやすくするために少し説明すると、この作品は、登場人物たちがインタビューシーンを通じて他の登場人物たちとの過去の関係について振り返って語る、いわば「偽のドキュメンタリー」のような構成になっている。
(右端から)もう一人の主人公ライアンを演じたクリスチャン、
相手役のマーガレット、新郎新婦役のマイク、ヴィクトリア
 インタビューというのは、例外もあるだろうが、ほとんどは台詞が用意されていない問答なわけで、役者がそれを「演じる」ためには、それがたった今思考と一緒に出てきた言葉であるかのように、カメラに向かって話をしなければいけない。こうしたことから、言葉と心理との関係を役者と一緒に探るこのプロセスに、Tape Techniqueは非常に役立った。
 リハーサルでやったことが、本番でどれだけ役に立ったのか、という点を振り返るとまた色々と反省点もあるのだが、このほかにも沢山あるメソッド・アクティングの各手法は、これからもずっと実践していきたいもののひとつだ。
(注1)メソッド・アクティング…モスクワ芸術座の演出家だったスタニスラフスキーが始めた演技法。後にアメリカで研究されて独自の発展を遂げた。先日亡くなったマーロン・ブランドや、ロバート・デニーロなどの名優達を輩出したニューヨークのアクターズ・スタジオがその手法を一気に広め、アメリカの演劇界、映画界に多大な影響を与えた。
 
学生映画の見方、米国の「リターン・ポリシー」
 日本で意外と知られていないのが、アメリカでは大抵の購入物が返品可能だということだ。どのような理由であれ、その商品が壊れていたり大きな傷や汚れがついたりしていない限り、オリジナルのレシートと、洋服ならタグがついたままであれば返却できるのだ。店頭のレジにも「Return Policy」として返品受付期間などの注意書きが書かれているところが多い。返品受付期間はたいていの場合、購入した日から30日、長いところでは90日なんていうところもある。WALMARTのようなスーパー・量販店だけでなく、MACY'SやSAKS FIFTHのような比較的高級なデパートでも同様だ。そしてこのリターン・ポリシーは、製作費の限られた学生映画にとっては大きな味方でもある。
 役者たちの衣装は基本的に、タグをつけたまま着用。ちょっとした高価な小物や、食器、造花など、必要なものはすべて購入して、使用後にレシートをつけて返品するのだ。私の作品でも衣装と小道具あわせて2000ドルほどかかったが、ほぼ9割が返金できた。返品時にはそれほど詳しい理由を述べる必要もなく、「ちょっと買いすぎたので」なんてちょっと無理のある説明でも通じてしまうところがおかしい。日本では通用しない言い訳だ。今回私は映画のためにこのリターン・ポリシーを利用したわけだが、現実の生活でもこんなことを繰り返している人が沢山いるのだから驚く。「こんなになんでも返品させていて、小売店は大丈夫なんだろうか?」などとこちらが心配になってしまうほどだ。
 また、同じように地元のフィルムスチューデントたちが衣装探しのためによく利用するのが、「A.C.T. Costume Rentals」という劇場運営の衣装レンタルショップ。母体であるA.C.T. (American Conservatory Theatre)は、サンフランシスコに本拠地を置き、38年続いている非営利の劇場運営組織で、付属の役者養成所では修士号も授与している。A.C.T.がベースとしているダウンタウンの「Geary Theatre」のような劇場は、Regional Theatre やCommunity Theatre と呼ばれているものだが、こうした劇場には、ほとんどの場合その地域の俳優が出演し、地域に根付いた劇場として市民たちに親しんでもらおうと、チケットも手ごろな値段になっている。私の通うフィルムスクールで演技指導をしている講師の中にも、A.C.T.の現役の役者がいる。また、A.C.T.では衣装だけでなく、劇場やリハーサルスタジオのレンタルも行っているため、週末にアマチュアの劇団が公演することもある。
A.C.T. Costume Rentalsのサイト
http://act-sf.org/index.cfm?s_id=&pid=ren_cst
 この「A.C.T. Costume Rentals」の地下には、劇場で使われた数々の衣装が所狭しと並んでおり、学生は通常料金の半額で借りることができる。しかも、「トライアウト・ポリシー」というものがあり、まずは好きなだけ無料でチェックアウトし、プロダクションを開始する日時までに返却すればチャージされることはない。つまり、プロダクション開始日時を実際よりもちょっと遅めに申告しておけば、すべての衣装を無料で借りられるわけである。少々衣装が古く、サイズもばらばらなので、注意深く選んで借りないといけないところが難点ではあるが、時代劇から現代劇まで各種幅広く揃えており、利用価値は大きい。
 
ハプニング連発、撮影12日間の闘い
 クランクイン。すべての準備が整った(はずだった?)4月23日、いよいよ撮影初日を迎えた。1日目は、この日美しい三日月となるはずの月の出を待って、撮影を開始。太陽が沈むと同時に西の空に現れた月は、思ったよりも光が弱く、カメラマンをちょっと困らせる。街中からのショットと、車を30分ほど走らせたトレジャーアイランドという対岸からのショットを同じ夜に撮影しなければならなかったため、月が沈まないうちに急いで移動。この日、インド人のタクシー運転手が車輌スタッフとして撮影に協力してくれた。祖国インドで映画を作っていたらしい。そして、移動後のトレジャーアイランドでの撮影は深夜に及んだ。
 
アパートでの撮影風景
 撮影2日目。この日のためにレンタルしたアパートメントのゲストハウスを使っての撮影を行う。24時間の使用料は170ドル。フルキッチン、フルバス付きのワン・ベッドルームの値段としてはそれほど悪くない。またこの部屋を使うことにしたのは、深夜まで多くの撮影クルーが出たり入ったりしなくてはならないため、普通のアパートでは撮影が難しいと判断したためだ。メインの役者2人と軽く直前のリハーサルをしたあと、撮影開始。クルーは総勢15人ほどいただろうか。ほぼ全員がうちの学校の学生だ。これだけ大勢のクルーと一緒に撮影をしたのは本当に久しぶりで、体力的にも精神的にも疲労困憊。この日も撮影は深夜まで続いた。
 撮影3日目。この日は、必要最低限のクルーで市内から1時間半ほど北へ上ったVacavilleという田舎町まで移動。ここには、今回作品に参加してくれるクレイ・アニメーターのライアン・マコーロック君の実家とクレイ・アニメのスタジオがある。私の作品のオープニングと中盤に短いクレイ・アニメーションのシークエンスが入るのだが、それをこのライアンが担当してくれることになっている。
 ライアンは同じ大学でアニメーションを専攻しているのだが、実は、若干21歳にして地元ではかなり有名なクレイ・アニメーターで、地元の環境コマーシャルなども作っている。また、高校生のときにはサンディエゴ・ショートフィルム・フェスティバルほか数々の映画祭で賞を受賞し、HBOというこちらのケーブルテレビで2年間の放映契約を結んでいたという、プロのクレイ・アニメーターなのだ。そうとも知らず、気軽に彼から無償協力とりつけてしまった私は、あとからクレイ・アニメーションの製作は1分間で最低でも7000ドル以上はすると聞いて自分の無知を恥じることに…。
 今回の撮影はその彼が長年使ってきたスタジオで行われた。ほぼ密室に近いスタジオのなかで、暑さと疲労に耐えながらの長時間の撮影で、クルーたちもさすがに疲れが見えてくる。この日の疲れが、あとになって大きな問題を引き起こすことになる。
 
 撮影4日目。知り合いの経営するレストランでの撮影。この日はショット数が多いため、朝早くからクルーが集合してくれた。…にもかかわらず、ハプニング発生! 鍵を持ったオーナーが現場に現れない。電話をしても留守番電話に。「どうなってるの?」というクルーたちの視線を痛いほど感じながら、プロデューサーと一緒に右往左往。オーナーを待つあいだ、いったん皆には早めのランチ(ブランチ?)をとってもらい、オーナーからの連絡を待つ。ようやく連絡がとれたころには役者のコールタイムも迫り、ドタバタと撮影準備が始まる。
図書館の入り口での撮影風景
 レストランでの撮影が済むと、今度はサンフランシスコ市立図書館まで移動して撮影。クルーの疲労とストレスが目に見えるほど雰囲気が悪くなっている。まずいなあ、と思っていたら案の定、撮影終了後に撮影監督(DP)のレイモンドからきつく注意される。プロダクションがオーガナイズされていない、との指摘だ。また、休憩時に食事を出すタイミングや、冷たい飲み物の準備不足まで事細かい不平不満が一気に噴き出す。普段はとても紳士的で優しいレイモンドだけに、ここまで怒らせてしまったか、と深く反省。翌日からプロダクション・マネージャーをもうひとり追加することでなんとか決着がつく。
 撮影5日目。個室でのインタビューシーンの撮影。そして再びハプニング発生! またしても場所を提供してくれた店のオーナーが現れない! 定休日だからとこの日を選んで準備してきたのに、なぜ? オーナーの自宅にも電話をするが応答無し。頭を抱えて、またしてもプロデューサーと右往左往。前の晩、あれだけレイモンドにオーガナイズされていないと注意され、新しく仕切りなおして頑張ろうと思っていた矢先、にである。そこでユダヤ人プロデューサーであるシン・コーエン君が、市内にあるジューイッシュ・コミュニティ・センターに問い合わせて使える部屋がないか交渉し、急遽ロケーションを変更。なんとか撮影を行うことはできた。後日、このオーナーがプロデューサーに電話し、日にちを間違えていたと信じられないような弁明。ああ、そうですか。
 
 撮影6日目。午後から前出のサン・クエンティン刑務所での撮影。この日も、最小限のクルーでの撮影だったが、前日までのハプニングの連続が嘘のようにすべてがスムーズに進む。
 
 撮影7日目。昼すぎから美しいエンバカデロの時計台近くでの野外ロケ。幸い天気に恵まれ、ちょっと日差しが強いことがDPのレイモンドにとっては曲者だったが、それ以外は万事順調に…と思ったら、やはりハプニング発生! 主役のクリスチャンが駐車禁止エリアに車を止めていて、目の前で駐禁チケットをきられる。罰金の70ドルは製作費持ちだ。日本に比べれば安いとはいえ、余計な出費は痛い。やはりパーキングには十分な注意が必要だ。
 
 撮影8日目。この日は午前中からダウンタウンBushストリートにある舗道での撮影。ちょうどチャイナタウン・エリアへと抜けるトンネルの上を走っている道なので、ダウンタウンの街並みが見下ろせる景色の良いポイントだ。この日は、ドリー(台車)を使っての撮影だったため、いつもに増して多くの男手が必要だった。そして引き続き、夜は近くのコインランドリーでの撮影。ここでも、ドリーをコインランドリーの中に持ち込んでの撮影だったため、洗濯をしに来た客たちが少し迷惑そうな顔をして脇をよけて歩く。こんな迷惑な撮影を許可してくれたのも、マネジャーがDPのレイモンドと同じフィリピン人だったからだ。こちらでは、意外なところで同郷人の恩恵に預かったりするものだ。
 
 撮影9日目。午後からとある小さな時計修理店での撮影。この店のオーナーは中国人なのだが、ロケーションスカウティングで撮影許可をもらいに行った際、プロデューサーがいろいろと説明し始めたそばから、見るとオーナーが大きく頭を振っているので、「ああ、だめか」と肩を落としかけた。するとオーナーが、「私は英語があんまりわかりません」と恥ずかしそうに言う。「ええっ!!」と驚く私とプロデューサー。もう20年もここで店をやっているというのに、英語がわからないとはどういうことだ? と思って客とのやりとりを見ていると、どうやら、時計のことなら話をせずとも何でも分かってしまうらしい。結局、ゆっくりと説明しなおすと、「No Problem! No Problem!」とあっさり許可してくれた。そんな経緯のすえに撮影することになったこの時計修理店。ストーリーのなかでも特に重要な役目を果す場所だけに、少ないショットにも時間をかけて撮影する。
 
 撮影10日目。いよいよ撮影の山場であるパーティ・シーンを迎える。この日は、ADの数も3人に増やし、撮影部や照明部もできるだけ多くのクルーに参加してもらった。場所は、これもまたハプニングの連続で難航していたロケーションスカウティングの末に、知人の口利きでなんとか特別に借りることが出来たホテル日航サンフランシスコの宴会場。値段も通常よりずっと安くしてもらうことができた。ハプニングやピンチは、常に状況を改善させるためのチャンスなのだということを、あらためて感じる。
この日は、地元のタレント事務所を通じて、エキストラの人たち総勢20人ほどにも協力してもらった。想像していた以上に、多くの人を使っての演出や画作りは大変なことを実感。なにしろ、部屋を借りられる時間が決まっていたため、できるだけ早く必要なショットをすべて撮影しなければならないからだ。まるで戦場のように多くのことが同時に起こる状況の中で、効率良く撮影を進めていかなければならないのに、今日始めて参加するクルーたちも多く、意思の疎通が難しい。撮影当日に変更が起こることは仕方ないとしても、撮影クルーへの情報伝達がいかに現場での迅速さに繋がるかを、身をもって体験した一日だった。
パーティ・シーンの撮影風景 カメラの傍でモニターを覗き込む私。
時間との闘いです
 
主人公マリアの母親役を演じた
ローズマリーと相手役のジェレミー
 撮影11日目。まるで戦場のようだった前日の撮影を終え、ちょっとだけ余裕が出てくる。この日は残りのインタビューシーンの撮影。パーティ・シーンでの葛藤に比べたら、肉体的にも精神的にも非常に楽な撮影だ。残すところあと一日。この頃になって、ようやく撮影のコツのようなものが掴めてきた(ような気がする)。
 クランクアップ。ついに、撮影最終日を迎える。この日最後に撮影したのは、主人公とその相手役のガールフレンドが結婚式のパーティに出かける、いちばん最初の夜のシーン。とはいうものの、撮影したのは午後であり、窓から差し込む光を黒幕ですべてシャットアウトして撮影に臨む。リハーサルの時点ではまだぎこちない感じの残っていた主役のクリスチャンと相手役のマーガレットだが、撮影期間を通じて徐々に親しくなってくれたおかげで、ベッド脇での絡みも自然な演技で応えてくれた。
 
 クランクアップした瞬間は、思ったよりもあっけなく、まだまだポストでやらなくてはならないことが山積していると分かっているためか、「終わった」という感じがしない。これから秋学期にかけて、編集やサウンドデザインなどを行うことになっている。そして、この作品の完成と同時に、2年半に及んだフィルムスクール留学も終了となる。ポスト・プロダクションの経過を見ながら、この続きはまた別の回にでもお伝えしたい。