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DCAJ news No.128
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『カンブリア紀「生命大爆発」に学ぶ:21世紀「情報大爆発」への対処法』5億年以上前、カンブリア紀に起こった「生命大爆発」。生物間に起きた淘汰の推移を例に、ブロードバンドユビキタス環境下での「情報大爆発」時代を生き抜くヒントを探るコラム。  

5億4300万年前のある日、地球を覆っていた濃い霧が突然静かに消え、太陽光の下、すべてがはっきりと見えるようになりました。海底の世界も例外でなく、すべてがはっきりと見えるようになったのです。海底でうごめきながら様々な種として発達をとげていた動物たちに、この太陽光に照らされる明るい世界は何をもたらしたのでしょうか。

まず大きな変化は三葉虫に始まりました。すでに熱を感じるセンサーを備えていた三葉虫は、さらに光があふれるようになると、種々の光に感ずるセンサーを発達させ、かつそれを集合して像を造るレンズを装備し、ついに外界の姿を克明に捉える「眼」を発達させたのです。

眼を持った三葉虫は、光あふれる海底でうごめく動物をはっきり把握し、その動きを見極め、追いつき先回りして捕食することが可能となりました。海底が明るくなり、眼を持ったことによって、それまでただ寄ってくるのを待って捕まえる受動的補食から、能動的な補食が始まったのです。当然のことながら、最初は、眼を持った三葉虫の一人勝ちでした。対抗馬のない強力な戦士になったのですから、見える限りの動物を追いかけて捕食することができました。これでは三葉虫以外の動物はたまりません。能動的補食による淘汰圧が強まった環境下で、生き残るために何が起こったのでしょうか。

まずは、捕食され難くする変化が発生しました。身を守る殻を発達させたのです。同時に、身を隠すための変化も起こりました。周囲の環境に、体形や体色を似せたのです。もちろんほとんどすべての動物が、遅ればせながら眼を持つようになりました。他の動物が、近づく三葉虫を発見する眼を持ち、身を守る殻をつけ、かつ発見され難い体色となると、三葉虫は、今までの一人勝ちから、見つけられない・補食できないという困った状況になりました。その結果、硬い顎を発達させ、かつ環境から得られる情報を総合して、隠れている獲物を発見する探索知能を発達させることとなりました。一方、補食される側も、隠れているだけでは繁殖できないため、仲間内には見つけてもらうための派手な信号を発信できるよう、様々な体形変化や体色変化を獲得するようになりました。

5億4300万年前に光あふれる世界になり、眼が生じたために、動物の世界では淘汰圧が強まり、ほとんどの動物種において、体形ならびに体色さらには探索能力や発信能力に、短期間で大変化が起こりました。三葉虫が一人勝ちを始めてからすべての動物種に大変化が起こり、対応できない種が淘汰されて、安定したのが500万年後でした。10億年前に多細胞動物が発生し、動物の世界の多様化は始まったのですが、約5億年かけての変化よりも、5億4300万年前からの500万年間、本当に一瞬とも思える間に起こった変化ははるかに激しく、この現象をカンブリア紀の「生命大爆発」と呼んでいるのです。

21世紀の我々は、「情報大爆発」と呼ばれる環境に身を置こうとしています。「情報大爆発」は必然なのでしょうか。必然とすれば何が原因なのでしょうか。カンブリア紀の「生命大爆発」に、我々は、何か学ぶことはないのでしょうか。

カンブリア紀においては、霧が晴れ太陽光が隅々にまで行き渡り、三葉虫が眼を持つことによって、能動的な捕食が始まり、淘汰圧が高まりました。その結果、ほとんどすべての動物種で、体形・体色・探索能力・発信能力に関わる短期的大変化がもたらされたのです。21世紀の環境において顕著なことは何でしょうか。色々ありますが、その中で、ブロードバンドユビキタス環境は、すべての人々に世界の隅々まで見える手段を与えたということで、カンブリア紀の霧が晴れたと同じ環境を、我々に与えたのではないでしょうか。

TVカメラとモニタは50年以上前から存在し、これを活用したTV放送により、私たちは今までも遠くの状況を見せてもらえてはいました。しかしながら、TV放送は、すべての視聴者が重要と思うような情報を配信することを主目的にしているため、個々人にとって本当に大事な情報はめったに無く、ある意味で行き当たりばったり的にたまたま意味ある情報が得られるという状況で、個人にとっての情報収集としては受動的でありました。これを打破したのがインターネットであり、ブロードバンドユビキタス環境です。この環境では、検索エンジンの力を借りれば、誰もが世界中の情報を覗き・収集することが可能となります。能動的な情報収集の環境が整ったのです。つまり、すべての人々が、検索エンジン→「遠隔眼」を持てるようになったのです。

では、この遠隔眼(検索エンジン)が出現したことで、何が起こるのでしょうか。カンブリア紀の「最初に眼を持った三葉虫」にならうと、まずその機能を最初に持った者、すなわち遠隔眼を最初に持った者の一人勝ちになります。故に、インターネットを生み出した米国が、IT社会において、まずは成功を収めていることは当然と言えるわけです。しかしながら同時に、情報漏洩という忌まわしい事件が頻発するようになり、遠隔眼を持つ情報収集者による淘汰圧が強まっているわけです。

カンブリア紀にならうと、遠隔眼による淘汰圧が強まる結果、創始者以外は、まず遠隔眼から自分を守ることから始めなければなりません。情報保護が今問われているのはそのためです。情報に殻をかぶせること、そして情報に擬態を施すことがカンブリア紀からの教えです。最も効果的な情報の擬態は、囮情報の大量発信です。一方、生き残るための重要な手段は、仲間内での発信を強めることであり、そのためには解り易い情報を、大量に発信しなければなりません。このようにカンブリア紀にならうと、遠隔眼による淘汰圧のもとでは、情報の大量発生は当然起こることであり、今「情報大爆発」が起こることは必然の成り行きであることが理解できます。すなわち、情報大量発生を前提とする社会生活を送ることを余儀なくされ、このことは人間の精神的生活、すなわち地域文化へ大きな影響を与えること、すなわちかってないほど強力な淘汰圧が地域文化に加えられだしたというわけです。

21世紀の「情報大爆発」がカンブリア紀の「生命大爆発」と同じく、遠隔眼による短期的淘汰圧を地域文化に対して発生する必然の現象ならば、21世紀の我々は、どんな対処策をカンブリア紀から学びとるべきなのでしょうか。それは補食のための探索知能向上です。また、仲間に発信するための発信能力向上です。「情報大爆発」の中では、情報の信憑性検証能力と解りやすい情報発信能力を合わせ持った地域文化のみが、生き残れるということが「生命大爆発」からの教訓です。

「生命大爆発」では、淘汰が始まり、進化できない動物種が滅んで安定するまでの時間は、たったの500万年でした。現代の「情報大爆発」は地域文化に対し、厳しい淘汰圧を加えています。この大変革はいつ終わるのでしょうか。また、地域文化の一つである日本語文化は、この厳しい淘汰圧の中で生き残れるのでしょうか。

動物種の多様化が10億年前から始まり、5億4300万年たって眼ができ、カンブリア紀の「生命大爆発」が始まって500万年で安定化しました。対比すべき地域文化では、どのように考えれば良いのでしょうか。歴史的アナロジーをに示します。人間社会においては、古代文明が生じてから、概ね5千年が経過しました。そして、今遠隔眼が出現したわけです。動物種の発生から眼の出現までがおおよそ5億年で、文化の発祥から遠隔眼の出現までがおおよそ5千年であることから、「情報大爆発」における時間スケールは「生命大爆発」時の「10万分の1」であり、「情報大爆発」下では、地域文化の淘汰はたった50年間で終わり、安定することになります。1980年代をブロードバンドユビキタス時代の始め、すなわちカンブリア紀の霧が晴れ始めた時に対応させるならば、「情報大爆発」は2030年には淘汰を終え、安定することになります。

使用人口の少ない日本語を使う日本文化は、言語による発信能力は弱く、従って淘汰圧に耐えて生き残れるかが大変心配です。しかしながら、「鳥獣戯画」図等に見られるように、日本文化は絵による発信という強力な手段を持っており、最近のアニメブームなどは、その力の強さの証明のように思います。遠隔眼、すなわちIT化と「情報大爆発」、による文化に対する淘汰圧は、日増しに強まりつつあります。淘汰圧をはねのけて独自地域文化を保持していくためには、情報信憑性検証能力を高め、情報発信能力を強める必要があります。他の、すなわち外国の文化の、力を借りることはできません。その文化自身の生き残りの問題だからです。我が国科学技術施策立案担当の方々が皆この状況を把握し、2030年代までの短期間勝負である、「情報大爆発」への対処が、特に情報信憑性検証能力と画像による発信能力を向上させることが、現在の最優先事項であるとして科学技術施策を立案されることを望んでやみません。

参考文献:「眼の誕生」 アンドリュー・パーカー著 渡辺政隆/今西康子訳 草思社 2006年



 カンブリア紀「生命大爆発」と21世紀「情報大爆発」との対比

2006.12.23 東京大学 安田 浩

参考文献:「眼の誕生」 アンドリュー・パーカー著 渡辺政隆/今西康子訳 草思社 2006年

項目 カンブリア紀 21世紀
大爆発の定義 【生命大爆発】
それまで概ね軟体動物で差違があまりなかった動物種のすべてにおいて、「眼の出現に適応するため」に殻をまとい体色豊かになり、ほぼ現在の形態に非常に短期間に変貌したこと、すなわち量的よりは質的に大変化をとげたことがカンブリア紀の「生命大爆発」現象である
【情報大爆発】
カンブリア紀にならうと、「遠隔眼の出現に適応するため」に、情報が量的のみならず質的に大変化することになる。画像とくに動画像および音響・臭い・触覚刺激をともなう情報が、ネットに満ちあふれることが21世紀の「情報大爆発」現象であり、必然的に発生すると予測され、その対処を誤ると独自地域文化を失う危険性があるので、早急な対応策が求められている
対比事項 対象 動物種 地域文化
環境変化 霧が晴れて光があふれる ブロードバンドユビキタス環境ができ、遠隔の情報を容易に収集できるようになる
出現したもの 遠隔眼
淘汰圧の強まり 受動的捕食→能動的捕食 能動的情報収集←受動的情報収集
歴史 地球誕生 46億年前
誕生 生命発生→39億年前 300万年前←アウストラルピテクス出現
形をなす 単細胞生物出現→12億年前 3万年前←ホモサピエンス出現
発展始まる 多細胞動物門の出現→10億年前 5000年前←4大文明発祥
大爆発開始 5億4300万年前
霧が晴れ、すべてが見えるように
眼の誕生
1980年代
ブロードバンドユビキタス環境ができ、遠隔の情報を容易に収集できるようになった
遠隔眼(検索エンジン)の誕生
大爆発終了 5億3800万年前終了→500万年間
初期は三葉虫一人勝ち
50年間←2030年代に終了
初期は米国一人勝ち
対応策 守る 捕食から逃れる→硬組織を持つ・擬態の獲得 情報保護・囮情報発信←収集から逃れる
考える 対捕食策を破る→探索知能の向上 情報信憑性検証能力を向上させる←対収集策を破る
訴える 生き残るために→目立つ体形・体色 解り易い情報発信力を向上させる←生き残るために
     
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