『CG映像技術の発展と感性表現』
女子美術大学大学院美術研究科為ヶ谷教授に永年のCG映像技術の開発と映像制作プロデュースなどの経験を振り返り、映像表現の拡がりと感性との関連についてご講演いただきました。
その概要を以下に記します。
1960年カラーテレビが開始されて以来NTSC方式がディスプレイのカラー映像の標準となっている。CG研究が急速に出始めた1980年になって、カメラを使わずコンピュータで生成した初めてのアニメ映像を、編集システムを開発し実現した(NHK特集「エレクトロ絵本」)。ロトスコープで撮った人の動作データを参考に、240×192画素8色という限られた画素で人などの動きを良く表現しており、色々なアニメの要素を含んでいる。表現能力の制約の中でアーティストの感性や創造性を刺激して実現した。
コンピュータの高機能化や、3次元CGなどの制作技術開発の進化に対応し、1982年CG作品「花鳥風月」(米国SIGGRAPH入選)など、より映像表現の完成度を高めた作品を制作した。1984年「21世紀は警告する」ではグラフィックスキャスターDr.Holonを輝く光の点の集合で表現する要求があり、スティックリガーという竹ヒゴ細工を動かす作業でアニメーションを作った時代に、難しいコンピュータとの連携を行い、また、NTSC方式の特性で小さな点では色が白くなるため、初めてハイビジョンレベル(1280×1024)で表現できるディスプレイに輝く点を出力し、それをカメラで再撮像する手法を用いた。表現の領域を広げていくことを考える状況が生まれてきた。
ハイビジョンの時代になり1920×1080画素24ビットフルカラーと解像度の向上で、CGの表現力が広がり、これまでと違う世界を作りだすことが出来るようになった。1997年CG作品「谿山夢想図」(米国SIGGRAPH入選)ではあえて墨絵の世界を実現した。この中で映像をレイヤーに別け作る手法で距離感を出したり、白黒だけでは墨絵にならず、さらに色を付加する(汚す)など、新しい映像表現領域を開拓した。解像度と表現力の向上をクリエイターが意識し、画面をそれらしくニュアンスを高めていくことが出来るようになってきた。
その後ハイビジョンの表現力を使用した映画作りに挑戦した。1992年映画「プロスペローの本」(ピーター・グリナウェイ作)では、素材にシェークスピア時代の質感を如何に出すかを工夫し、実写ビデオ映像とCG映像のテイストをなじませる技術などを活用した。ここでは今のノンリニヤ編集システムのような最初のシステムを使用、フランスのアーティストにとっては新しい創造性をそこに作り上げることが出来た。1993年映画「夢の涯までも」(ヴィム・ベンダース作)では、デジタル技術で監督自身が手動で操作し映像を見ながら色彩を施す画像処理技術などを開発、アニメ制作現場の中での活用を考える一つの状況を提供した。これらの作品では、ハイビジョンの利用法として開発した、CGと実写を組み合わせパレットのようにペイントしていく「エレクトロニクスパレット」と呼ぶ概念を用いた。これは、テクノロジーの進化が表現領域を拡大して創造性を進化させた取り組みの一例である。技術の進化がもたらす表現領域の広がりは色の深さなど実用レベルになってきており、これをどう映像の中で生かすかがこれからのクリエイターの大きな挑戦になっていくと思う。
1994年頃からは、ハイビジョン立体映像制作に取り組み、自然な立体感、画面の細かさと立体感、立体視と色の使い方、立体視での物体の動きの表現、CGによる立体映像制作上の課題などに取り組んだ。また、スーパーハイビジョンなどが出て、さらに解像度を増し、フレームレートも60Hzと人間がフリッカーを感じ無い領域まで進化していく。どのような表現の領域が生まれるのか、クリエイティブな人達とのコラボレーションによって作り上げることが出来るのではないか。PCで映像制作しハイビジョンを再生するという時代、色々な使われ方が広がっていき、また、研究が実際に映像として目前に呈示されるとき新しい技術に対するリクエストが出てき、新しいビジョンを開いていく力になるのではないか。
感性は人の記憶の中にあるもので、記憶の中に感じる力が出てきて、感じる力が何か生み出す力になると考えられる。デジタル技術の進化で動画像システムの完成度が高まり、より直接眼で見ているのと同じように映像を見ることが出来るようになると人間の感性にも影響してくると考えられる。表現領域が拡がることにより自由な創造性を生み出し、それぞれの個性や感性を育てる事につながる。また、基本的な美について学ぶことも、映像の鑑賞力を高めることにつながる。