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DCAJ news No.133
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オープンカフェ:北京のコンテンツ事情 東京大学大学院情報学環 教授  馬場 章  

画家梅原龍三郎の名作に『北京秋天』があるように、北京を訪れる季節は秋が最もいいらしい。春から初夏にかけては黄砂が北京一帯を覆い、空を見上げるどころの話ではない。にもかかわらず、私は今年(2007年)の5月下旬、北京を訪問することになった。北京にあるマイクロソフトリサーチアジアが主催するGaming&GraphicsのWorkshopに参加するためである。

約1年ぶりに北京を訪れてみると、2008年のオリンピック開催に向けて町中が工事中だった。老朽ビルを取り壊して新しいホテルの建設中、あるいは車道だけの道路をはがして歩道を敷き直している。工事の粉塵と黄砂とで、北京の町はいっそう埃っぽい。

しかし、空から北京へ降り注ぐ日差しは強い。5月下旬だというのに、ゆうに摂氏30度を超えている。酷暑の中、私はWorkshopに先立って中関村に行ってみた。このあたりはもともと中国科学院をはじめ、北京大学や清華大学もある文教地区である。近年では科学技術特別地区に指定されて、IT関連企業が産業クラスターを形成している。アニメやゲームなどのコンテンツの分野でも、中国政府がこの地区に「国家網遊動漫遊戯産業発展基地」(動漫基地)を設置した。

中関村はまた「北京のアキバ」とも呼ばれる。いくつもの大型ビル(「商城」)のなかに無数の電気店がはいって、掃除機・洗濯機・冷蔵庫などの家電をはじめコンピュータ・デジタルカメラ・携帯電話機などを売っている。とくに近年では後者の電子機器の比重が爆発的に増えたそうだ。電子製品の包みを下げて商城と商城の間を人々が行き来する光景は、まさに秋葉原そのものだ。

もちろん、中関村の商城ではコンテンツも売っている。中国・韓国・日本そして欧米の映画やアニメのDVD、音楽CDやゲーム機・ゲームソフトなど、さらに、Wii、プレイステーション3、Xbox360、ニンテンドーDSやプレイステーションポータブルもちゃんと置いている。しかも中関村の商城で売られているソフトウェアはすべて正規品だった。そういえば、かつてビルの陰の露天や歩道橋の上で売られていた海賊版が姿を消していたのも今回の新たな発見である。

ところで、中国では、もともと中央や地方のテレビ局が乱立していたところに、アニメ専門のCSチャンネルが新たに4つも誕生して深刻な番組不足をきたしている。ゲームに関しても、北京の若者は地下鉄に乗れば早速携帯電話でゲームを始めるほど普及していて、足の速い携帯電話ゲームに新作の投入が求められている。しかし面白いゲームは少ない。そこで、前述の中国政府による国家動漫基地の設置となった。中国政府は、コンテンツ産業の振興とコンテンツ人材育成に全力を注入しているのである。

北京で海賊版を見かけなくなったことと中国政府のコンテンツ政策は密接に関連している。かつて第二次世界大戦で敗戦国となった日本は、欧米のパクリをさかんにやっていた。海賊版という語が登場したのは高度経済成長直前の昭和30年代のことである。海賊版とはpirate(pirated)editionの訳で、本来日本人が欧米の作品をコピーすることを意味していた。それに対して、日本人が日本人の作品をコピーすることを「山賊版」と呼んだが、この語は現在では死語になってしまった。そして、今や海賊版と言えば、もっぱら日本の作品が海外でコピーされたものを指すようになったのである。その背景には、日本人の創造力が成長してもはや海外の作品をコピーする必要が無くなったと言う事情がある。

同じように、中国における海賊版の減少は、政府による取締りの成果というよりも、中国人がコンテンツの創造力を身につけるようになって著作権意識が高まった結果と見るべきだろう。遵法精神というのは自然に形成されるのではなく、人々の中にある自信や誇りがそうさせるのである。コンテンツの場合、コンテンツを創造する立場に立つと法の意識がより明瞭になる。中国のコンテンツ創造力は、日本に追い付くことを目標としていた段階からいよいよ次の段階に入ったと言えそうだ。

     
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