
2010年2月3日(水)ホテルモントレ半蔵門にて、標記セミナーを開催。劇場用アニメーション『チベット犬物語』の共同制作に中国電影集団と共に取り組むマッドハウス北京、中国におけるアニメーションビジネスの申請代行を行う機関や日本のアニメ企業の誘致を行う政府、動漫基地、その他投資家等々へアプローチを試みた(株)シンク、その他香港、杭州からアニメ産業に携わる講師を迎え、中国におけるアニメーションビジネスについて、多角的に検討した。
【プログラム】
開会 経済産業省 商務情報政策局 文化情報関連産業課 課長補佐 高尾啓士氏 挨拶
テーマ 「日本製アニメーションの中国展開方策の事例と検証」
講 師 (株)シンク 代表取締役社長 森祐治氏
テーマ 「中国アニメーション市場参入のための法則」
講 師 A Go Go Corporation President & CEO Steven Ching氏
テーマ 「日中合作劇場用作品『チベット犬物語』にみる中国コンテンツビジネス」
講 師 マッドハウス北京 副総経理 和泉將一氏
パネルディスカッション「中国におけるアニメーションビジネス戦略」
モデレータ:
(株)シンク 代表取締役社長 森祐治氏
パネリスト:
マッドハウス北京 総経理 小原和夫氏
慈文影視制作有限公司 国内区域発行主管 潘姍氏
A Go Go Corporation President & CEO Steven Ching氏
浙江大学影視與動漫遊戯研究中心(コンテンツビジネス研究センター)夏瑛氏
閉会 (財)デジタルコンテンツ協会 企画・推進本部本部長 青木好郎 挨拶
各講演の要点は以下のとおり。
①「日本製アニメーションの中国展開方策の事例と検証」 (株)シンク 代表取締役社長 森祐治氏
[中国市場への参入]
- 中国市場は決して特殊な市場ではない。日本・米国をのぞき、大抵の国は何らかのポイント制という仕組みや国籍という概念があり、簡単に外国コンテンツは入れない。中国には国産と輸入の放映量の絶対量規制、7:3のバランス規制、ゴールデンタイムの規制、輸入業者に対する規制がある。中国産アニメの制作者以外は輸入を許可されておらず、海外作品の中国への持ち込みは中国人にとっても容易ではない。
- テレビ番組や映画に関する許諾は中国・広電総局が行っているが、それとは別にコンテンツの思想性をチェックする審査やDVDなど固定媒体としてコピーライトを取り扱う文化部がある。中国ではアニメーション、映画、漫画の関税があり、文化部がコントロールしている。
- 中国にはパテントや特許などのライセンスの取引を行う「文化産権取引所」という機関があり、中国政府が持っていたプラント、場合によっては公社の株式なども売られている。そこを活用し、知的財産の取引もできる仕組みを中国政府は準備している。現在、第1号が上海で立ち上げられ、他の地域にもこのような仕組みを設置する動きがある。
- 文化産権取引所のディーリングルームの周囲には税務署、法務局の窓口、その延長上で広電局や文化部の窓口があり、ある程度の許諾や批准を取ることが出来る。コンテンツ版の交易所も準備中で、積極的な動きはないが、日本からのオファーを待っている、と言われている。
[事例紹介]
- VIACOMのNickelodeonは中国作品を放映することを条件に、VIACOMで一番人気のある作品を中国で、ほぼ無条件で放送するという交渉を行い、成功している。中国では、海外のアニメ作品を簡単には放映できないが、VIACOMは複数の作品を持って行き、そのうちのいずれかを放映してほしい、と要望を出した。交渉の際、米国の政府高官、通商代表、あるいは商務省の人間を同行させ、直接文化部と交渉し、省の放送関係者を説得して回った。その結果、Nick-Asia、Nickelodeonのアジア地域チャネルで週に1時間のChina Toonという特別枠を設定し、CCTVのアニメ番組を放送した。これにより彼らの持つ人気番組の中国での放映と中国の人気番組の放映をスワップ・シンジケーション、交換で放映することの同意を得た。
- 完成品の持ち込みだけが中国攻略の方法ではない。中国国籍を獲得すれば中国作品になるが、日本で制作したコンテンツの中国放映が難しければ、中国人と合作、共同制作を行う方法もある。
- コンテンツの中国国籍の取得、対象国で国籍を取ることは国際戦略として非常に重要である。そのためには業界用語でpod、日本語でいう財布という概念に関し、我々はより学ばなければならない。
- 「パイレーツ・オブ・カリビアン」等、多くのハリウッド映画作品は二重国籍である。費用はヨーロッパ、制作はアメリカのスタッフで、それぞれの国で国籍を取るという仕組みを使い分けている。これには文化面ばかりではなく、支援のための制度の問題もあり、幾つもの国でこのような仕組みが使われている。特にヨーロッパのように国際共同開発が活発な地域では、多国籍コンテンツは一般的である。
②「中国アニメーション市場参入のための法則」 A Go Go Corporation President & CEO Steven Ching氏
[事例紹介/中国市場のルール]
- 中国で、アニメーションの共同制作は簡単ではないが、映画については比較的容易である。A Go Go Corporationがヨーロッパと上海で共同制作した作品は50対50のタイアップ、申請から批准までの過程において難しさはなかったが、最初の申請から許可証がおりるまでに10カ月を要した。政府に内容を提出し、チェックを受けること12回、申請ごとのコメントに対し修正をかけ、再提出する。各場面や色々な役柄まで修正を行った。
- 「Code Lyoko」という作品はアメリカのカートゥーンネットワークに入っており、アジアではシンガポール、マレーシア、タイで売れた。各国で高評価を得たが、逆に中国ではこの作品に対し、国産と見なせるか、これは偽の国産作品ではないか、という意見が出、発行証、許可証は取り消され、赤字に陥り、我々の収益に大きな打撃が与えられた。
- 「Buttercup Wood」という作品は全52話、話数が多い場合は、申請を分けて行っても良い。すべての制作工程を動漫基地内で行うと政府の支持が得られる。この作品は中国で申請、脚本、資金等、すべて調達し、中国のルールに従い制作した結果、中国の信頼を得ることができた。この作品は、後にフランスの企業やテレビ局に売った。
- 中国は、政府がビジネスを管理することにより「規範的なビジネス」を促す。違法行為は認めず、ルールを学び、ルールに沿ったビジネスを進めることを政府は望んでいる。“中国作品”と言うだけではなく、規定の手順に則り申請することが必要。
- 作品はプロジェクト立案時に政府に申請し、許可が下りた後、制作に入る。完成したコンテンツは関係部門、司法部門の検閲を受け、内容に問題がなければ、放送・配給の許可証を得ることができる。その後、配給番号が付与されるが、作品の冒頭と最後にこの番号を流す義務が生じる。
- 中国と無関係の題材を扱う場合、例えば、日本の漫画でも過去アニメ化されておらず、中国に受け入れられる内容であれば、版権を買い、中国政府の関係部門に相談し、伺いを立てる。反対されなければ、制作に入ればよい。資金についても、一部が海外資金であっても合法的な手続きを踏み、契約を交わし、海外資金が入る理由を説明できれば問題はない。海外側が協力し共同制作のパートナーという立場であれば、中国国産の作品と見なされる。
- 中国の身分証が無い場合、中国でアニメ制作会社の設立は難しいが、基本事項を守ればアニメ制作はできる。広電総局に登録し、作品申請を行い、中国と協力の上、国産品として出すことができる。制作許可が下りた後、2年間で完成しなければならない。2年以内に完成しなければもう一度申請をしなければならない。
- 中国政府はコンテンツの輸出を奨励している。税的な優遇も受けられるため、テレビ局との契約や基金を使い、輸出することは中国政府の要求にかなっていることになる。
③「日中合作劇場用作品『チベット犬物語』にみる中国コンテンツビジネス」 マッドハウス北京 副総経理 和泉將一氏
[海外展開]
- マッドハウスは、2005年頃から積極的に海外展開に取り組んでいる。欧米からの委託を受け、「バットマン」や「HIGHLANDER」というアメリカの実写映画のリメイク、「ANIMATRIX」を制作。最近は受注制作に留まらず、共同制作に注力している。反対にマッドハウスから外注するパターンもある。特に動画仕上げに関してはほぼすべての作品を海外に出している。アニメーション制作は海外の力を借りなければ完成しない時代であり、加えて日本のマーケットが縮小しているため、資金調達を海外に求め、そこからの回収も前提とした作品制作がますます重要になる。
- 海外との共同制作の第一弾である「よなよなペンギン」では、ビジネススキームの構築と幹事業務を初めて行い、フルCG劇場アニメーション製作にチャレンジした。フランスとの合作で、同国から50%の資金調達をし、そのうちの一部には、CNCというフランス国立映画センターの助成制度を活用した。配給は日本では松竹、フランスではGebekaという企業、海外のセールスはWild BunchとGolden Networkの2社に依頼。映画が完成する前のプリセールスの段階で、既に10か国以上の販売が成約したが、現状はもっと増えている。ベネチア映画祭他、各種映画祭で取り上げられ、念願のフランス公開も実現した。制作体制はマッドハウスがクオリティの保証と制作統括を行い、ダイナモピクチャーズとフランスのDef2shoot、タイのIMAGIMAXというCG会社の協力を得て完成。原案からプリプロまで日本で行い、CG映像は3ヶ国で制作。最終的に、日本でクオリティやバランスを調整し、仕上げた作品である。中国でも販売済みで輸入の許可を待っている状況。
- MARVELとのコラボレーションは新しいアニメーションブランドの立ち上げというコンセプトでスタートし、現状、「アイアンマン」、「ウルヴァリン」、「X-MEN」、「BLADE」の4作品を制作中。今年は日本のソニー・ピクチャーズで「ANIMAX」を放映後、世界へ向けて配給する。日本での商品化はアトラス、海外での商品化はMARVEL。
MARVELはジャパニメーションテイストでの制作要望を出しており、マッドハウスはキャラクターデザインの変更許可を与えられている。
[チベット犬物語]
- 原作は楊志軍が書いた同名小説で、中国ではベストセラー。その作品を日本のアニメーションテイストで劇場映画にすべく、マッドハウスが日本の制作委員会の幹事を務め、中国では中国電影集団(中影)の出資が入った形でプロジェクトがスタート。キャラクターデザインは浦沢直樹氏、監督は小島正幸氏、脚本は井上尚登氏。孤独な少年とチベット犬の友情物語にサスペンスを盛り込んだ大自然を舞台としたファミリー映画である。プロジェクト発表は昨年6月にアヌシーで行った。
- この作品については2ポッドでの資金調達と世界展開を考えている。中国電影集団は中国、台湾、香港、マカオを担当、それ以外の全ての国々は日本を中心に立ち上げる製作委員会が担当。両サイドからの出資を製作幹事であるマッドハウスが引き受ける。制作現場は日本と中国の両方にあり、日本ではプリプロ、美術、音楽、原画、最後のポスプロ、中国では、その中間の動画と仕上げを担当する。日本語原版は日本で完成させ、それを中影に渡し、中国語版の制作は別予算で吹き替え版を中影が制作する。
中国電影集団は中国でのオールライツを持っているが、商品化や製品タイアップなど周辺ビジネスに関しマッドハウス北京が委託を受けている。
- 共同制作のメリットは製作費の共同負担ということと、輸入ものと違い、中国での上映が保証されていることである。内容に対する制限や審査はあるが、今回の「チベット犬物語」は舞台がチベット、中国であるため、それについての心配はない。合作はやり方によっては、とても有効な手段である。
- 日本からのアニメーション作品の輸入に関しても引き続き努力していかなければならない。中国政府の輸入枠の制限が拡大するような働きかけやバーター放送など様々な方法があるが、一社だけでできることには限界があるため、日本の企業や政府と共に取り組んで行きたい。
- マッドハウス北京は合作のみならず、中国国籍の作品制作も検討している。日本や海外での放映を前提にクオリティの高い作品を中国で制作することが、今後の活動の柱の一つになる。
④パネルディスカッション「中国におけるアニメーションビジネス戦略」
当初登壇予定だった慈文紫光数字影視有限公司総裁の王氏に代わり、慈文影視制作有限公司の潘氏が登壇した。
- 中国のアニメチャンネルはあまり広告価値がないため、テレビ局はアニメコンテンツを高く買うことができない。制作会社はコストを低く抑えなければならず、それ故、作品のクオリティは上がらない。総体的に中国のテレビアニメの質が幼稚で荒い背景はここにある。その一方で、劇場用アニメ「喜羊羊」のような観客動員数および関連ビジネスでも大成功を収める作品が出てきた。
- 中国のアニメ産業への優遇策は国際レベルの制作力を持つスタジオと助成金頼りで質の低い作品制作を続けるスタジオの二極分化を進めた。
- 中国は、制作者は多いが全体的な企画運営を行う能力や経験が少ない。日中が協力し合いともに発展を目指すべき。
- 中国に限らず、先ずはターゲットとする国の文化やルールを学ばなければならない。日本のアニメ産業はグローバルに戦う力をつけていくことが大切。