2002年9月度(第1回)DCAjセミナー実施報告
 

SIGGRAPH2002から見るCGの技術動向

 
 

 2002年9月12日(木)、DCAjにおいて、本年7月にテキサス州サンアントニオ市で開催されたCGに関する国際学術会議である「SIGGRAPH2002」を技術の側面からとらえたセミナーが開催された。

今回のセミナーは、女子美術大学為ヶ谷教授より「Emerging Technologies」を中心とするメディアとテクノロジーの融合するインタラクティブな技術について解説していただき、株式会社エクサ安藤氏より「Exhibition」からの最新システム及びソフトウェアの動向ならびに「Papers」からの興味深い技術論文についてご紹介いただいた。

(1)「Emerging Technologies」を中心とするCGの技術革新

  講師:女子美術大学メディアアート学科教授
      為ヶ谷秀一氏

 Emerging Technologiesとは、人間と機械の融合する境界であるインタフェースをひろげる技術である。
 大学においてメディアアートという分野を担当していることもあり、メディアとテクノロジーの融合する分野における表現について研究しているので、個人的に興味を持っている分野である。
 展示の内容としては、リアルに存在しているものとバーチャルなものの組み合わせが多い。しかしそのインタフェースはプリミティブなもので完成されたものではない。企業や大学の研究所の出展が中心となっており、特に日本の研究所の挑戦的な取組みが目立つ。
 以下に、Emerging Technologiesにおいて気になった展示を紹介する。

○ The Interactive Window(マサチューセッツ工科大学)
  ガラス面をノックしたり叩いたりすることによって、ガラス面の四隅についた集音マイクで音を検出し、それに対応したインタラクティブなコンテンツをリアルタイムに表示する。ショーウィンドウなどへの応用が期待できる。

○ Lewis the Robot Photographer(ワシントン大学セントルイス校)
  ロボットが自由に移動し、カメラで捕らえた映像を分析して顔の部分を検出し、レイアウトを考えた写真を撮る。

○ Public Anemone An Organic Robot Creature(マサチューセッツ工科大学)
  お客が来た時に、人工知能によって反応するロボット。人間とのインタラクションの中でどういう表現を具体的なオブジェクトにさせるかということに意義を見出せる。

○ Smart Finger(東京大学)
  指先に付けたUVセンサーにより、平面に書かれた線や絵のエッジを検出して、爪に振動で伝えるシステム。視覚障害者などのインタフェースとして考えられる。

○ TWISTER:A media Booth(東京大学)
  全周型裸眼立体視LEDカラーディスプレイ。右目用、左目用の画素を表示するLEDがあり、その間に遮蔽版を置き、全体を回転させることにより裸眼で立体視ができる。非常に大きなシステムで展示は大変であるが、実験的な取組みとして人気があった。

○ Ultrasound Visualization with the Sonic Flashlight(カーネギーメロン大学)
  超音波診断機。シースルーで患部に図形を重ね合わせることができるもので、非常に実用的。

○ Virtual Chanbara(東京大学)
  HMDを装着して仮想空間に登場する忍者と刃を交えるエンターテインメントシステム。モーターにより回転する円盤によって、剣がぶつかるときの感覚をフィードバックするシステムで非常に人気があった。

○ The Virtual Showcase(Fraunhofer CRCG, USA)
  恐竜の頭の展示物(実際の展示物)に3次元プロジェクションを用いてバーチャルな筋肉や皮膚の映像を投影するシステム。昨年度のSIGGRAPHでは単なる3次元の映像として展示されていたものが、今年度は実際の展示物の上に立体的に合成して見せる取組みとなっていた。

 インタラクティブな技術は常に挑戦が必要であるが、システムと人間がどのようにコミュニケーションするかという点が常に問われており、そのインタフェースの完成度がシステムの完成度につながるものであると思われる。これら作品が、何年後かに実際の作品として出てくるかどうかという点が楽しみのひとつである。

(2)最新システム、ソフトウェアおよび技術論文紹介

  講師:株式会社エクサ 安藤幸央氏

○ Exhibition(展示会)
 展示会では、Alias/WavefrontのMaya4.5、SoftimageのXSI v3.0、Discreetの3ds max5など、メジャーなCGソフトウェアのバージョンアップが発表された。
 上記のようなハイエンドのCGソフトウェアはハリウッド映画にも利用されるが、ソフトウェアの持つ機能だけでは十分ではないため、ハリウッドのCGプロダクションでは、各社毎に最新の技術を投入したツールを開発するチームを抱えており、それら技術がハイエンドのCGソフトウェアに取り込まれてバージョンアップしていくのが特徴である。
 Pixar、PDI、DreamWorksといった世界の有数のCGプロダクションも出展しており、制作に係わった映画などを上映し、プロダクションのプレゼンテーションとともに、優秀な人材を確保するための求人活動を行っていた。
 例えば、Pixarでは、RECRUITING FAQというPixarで働きたいと思う方向けの、小冊子を配布していた。これには、「自分の作品のデモリールを見せたい場合は、インターネットのURLやCD-ROMを送っても、採用担当者はあまり見てくれないので、VHSのビデオテープ3〜5分程度に短くまとめたテープに連絡先のついたラベルを貼ったものを提出しましょう。」といったような、他のプロダクションで働きたい方にも役立つ情報が載っていた。
 Appleからは、スターウォーズを始めとした映画制作で利用されているShakeなどの動画合成のためのソフトウェアを中心としてプライベートセミナーで紹介しており、動画の合成に市場ターゲットを絞って展開していくのではないかということが伺えた。
 SGIからは、VAN(Visual Area Networking)というコンセプトを打ち出していた。これは、離れた場所にあるハイエンドなコンピュータの画像処理能力を利用して、それほど高速ではないコンピュータに画像を表示させるという考え方で、最近では、病院内にあるサーバーを使って脳の断層を3次元グラフィックス化したものを、手術中に手元にあるコンピュータに表示するといった実験も行ったとのことである。

 その他変わった商品としては、

・Zbrush 特殊なブラシを使って、2次元上に3次元形状を描ける。
・Eyematic 普通のデジタルビデオを用いて、マーカー無しに、顔のキャプチャリングができる。
・FaceGen 年齢や人種や感情をパラメータによって調整することで顔のモデルを生成する。
・Anark 時間軸に沿って、3次元のコンテンツを表示する。
・Dragri 静止画を、マウスでドラッグして動かすことができる。
・Roomnavi ネット上で、平面図のプランニングをすることで、パース画像が作成できる。
・Point Grey ストップモーションの映像を簡単に作ることができるカメラ。
・Xkey 専用キーボードを作るために、各キーに機能を割り当てる。
・Actuality Systems 透明なボールの中で表示装置を高速に回転させることによって、3次元映像を表現するディスプレイ。
・Paper Optics 様々なデザインの立体めがねの展示。
・Digital Imaging Table テーブル上に画像を表示することができる。
・Vision Dome 市販のプロジェクターに特殊なレンズを使用することによって、半球ドームにプロジェクションする表示装置。

というようなものがあった。その他、ベンチャー企業による出展として以下のような展示があった。

・N4 dimensions カメラで目の位置をトラッキングして、3次元画像を表示するディスプレイ。
・GeOrb センサー球状のマウスで3次元形状を操作する。


○ Paper(論文発表)

 今年の論文のキーワードとしては、HDRI(High Dynamic Range Images)とNPR(Non Photorealistic Rendering)があげられる。
 HDRIとは、デジタルで表現できる色の範囲を拡張しようという試みであり、「Gradient Domain high dynamic range compression」という非常に明るい画像や非常に暗い画像をコンピュータ画面上で表現するために、輝度と色とに分解して計算する方法に関する論文があった。
 NPRとはスケッチしたような、手書き風のやわらかみのある映像をコンピュータで生成するための試みであり、「WYSIWYG NP : Drawing Strokes Directly on 3D Models」という手書きの描画を元に3次元モデルをノンフォトリアリスティック描画する論文があった。

最後に、SIGGRAPHの展示会や論文発表をまとめると、以下の四つの特徴があげられる。
・リアルタイムレンダリングの高画質化
・ソフトウェアレンダリングのさらなるリアル指向
・ノンフォト・アニメーション技術の進歩
・表示デバイスの多角化(携帯端末・多画面・立体視)