2003年7月度特別セミナー実施報告
 

「VFX−フォトリアリティへの挑戦」

 
 
 VFX(ビジュアルエフェクツ)とは、特殊視覚効果。
現実の世界で表現しにくい映像をデジタル技術をはじめとしたあらゆる手段を駆使し、CGIや実写映像と合成することにより仮想現実を映像として実現するもの。実際には、撮影時には存在しなかったものの創造や、現実感をかもしだす処理などが施され、今後技術の進展とともに益々可能性が広がる分野と期待される。
 特撮技術全般のビジュアルエフェクトスーパーバイザーとして、多くの映画、CM制作に携わる古賀氏を迎え、最近のVFX映像作品を見せていただきながらVFXの現状と可能性について語っていただいた。VFX映像を見ながらの講演で、残念ながらスチール写真も不可という形での報告であり、今一つニュアンスをお伝えしにくいが、特徴的な内容をピックアップし報告する。
 


講師:古賀信明
(有)スペシャルエフエックススタジオ 取締役

 はじめに
 どんなことをやっているか、4分程度のデモリールがあるので、それを見ながらお話する。アナログ、デジタルいろいろある。フォトリアリティをいかに実現するかについては手法にとらわれないことが第一かと思う。洋の東西を問わず、いかに経済的に無駄なく目的を達成するかがポイントであり、一つの手法にとらわれるというのははなはだばかばかしいことだ。いろんな手法を知っていることが結果に繋がる最短コースかと思う。その中で、デジタルというのは異常に発達し、異常なスピードで発展しているが、それ以前に培われてきたアナログの技術がデジタルの技術の裏に隠れてサッパリ忘れられようとしている状況は、非常に憂うべき状況ではないかと思っている。
 ポイントとして、どう見せるかということと、どう見えたらいいのかということがあり、それを踏まえて、それをどう用意するのかということについてもお話したい。
 プロの仕事というのは、先ず何が求められているのかを的確に捉えることができなければ、その先どんな優秀な人間を連れてきても一切無駄であるということ。何が求められているのかを的確に掴んで、それに対してどういう手法を使って具現化していくかということがプロに求められている事であり、要求通りのものを納品できた時に初めてお金をいただく価値があるということになろうかと思う。
 人にそれをどう伝えるか、打合せの席で求められているもの、現象としてはこういうものだというのは誰しも見れば解ると思うが、その根底に流れる何を表現したいのか、何が言いたいのか、あるいはこれを表現してもいいけれども、それを表現する上で、この表現はマズイとかいう部分まで先回りして察知する力というものが、事前に必要であると思う。そういう部分を読み取る力というものが、そのプロジェクトを動かしていく船頭役のチーフとかスーパーバイザーとかディレクターと呼ばれる人たちに求められる素養だと思っている。そういうことが解っていないと、どうあがいてもいいものはできっこないということになると思う。
 それから、現場の方でどういうものを創ればいいかという面でとかく陥りがちなのが、特に若い作業者が、いかに苦労したかという想いがあるため、横からいくらそれは違うといっても、これだけ苦労したからきっと良いに違いないと考えてしまうこと。そうでないということを説得する役割も上に立つ立場の仕事であるかと思う。その中で、どうすればフォトリアリティに見えるのかという事で、マットペイントを例にあげて話をしたい。

 マットペイントとは
 マットペイントというのは、いわば「つくりごと」の一つの頂点、デジタル以前アメリカなどでは大きな画板(2m×1m位)、日本だとかなり小さめでアニメーションの背景画位の大きさ(B4位)が一般的。日本のサイズでは小さな面積に描き込んでも、最終的にはそれを極端に拡大するためリアルに見えないというのが問題だった。
 アメリカでは大きな画板で描かれているが、原画を見ると思った以上に絵筆のタッチが残っていて、つまり緻密な絵ではないのに何故それがリアルに見えるのか謎であった。
 自分でもアナログ時代からマットペイントに触れて仕事をしてきて、自分なりの結論を見出した。それは人間の眼というのは、すべての情報が一度に見えるのではなく、見える順番がある。先ず明るさ、次に色(これはほぼ同時といっていい)それから形、そして最後にディテイルという順番で見え始めてくる。
 映像のように、一定の時間が過ぎると次のカットになるといういうものについては、鑑賞時間が絶対的に限られている。その中でどう印象付けるかという考え方をしないと、ある一部分を注視してここがどうだとか、ここのディテイルがどうだとかいうのは全くもってナンセンスということになる。
 お客さんがどこを見るのか、何を求めているのか、何を見せたいのかというところから逆算して、必要な最小限度のディテイルを描いておけば、結果的に人は、それを見た気になる。だから決してディテイルではないということ。もし敢えてディテイルということについて触れれば、ハイライト、CGでいえばスペキュラーに相当するような場所を丁寧に表現すること。そうすれば、実際のディテイルがそれほどなくても本当にそこにあるように見えてしまうというのがマットペイントの極意であるという風に考えている。絵の具で描くということはそういうことなんだと。
 それからお客さんが見る視線、先ずどこを見るのかということも限られたカットの中では考えないといけない。特に何もなければ絵の中央、もし動くものがあればその動くものとその周辺を見ることになる。だから言い方が悪いが、それ以外の部分は思い切り手が抜ける。
 マットペイントが手を抜いているのに何故リアルに見えるのかという疑問はまだ残るかもしれない。実際にマットペイントを観客が見る際に、人がどう感じるかを考えてみよう。人間の視界は約150度前後位だそうだが、実際にシャープに見える視角は1度から4度といわれている。
 実際に見えている部分と本当にシャープに見えている部分では解像度に大きな違いがある。マットペイントのすべてを見渡すには時間がかかり、マットペイントのすべてに渡ってディテイルがなくても、自分が見たいと思うところにディテイルがあれば、それから類推してすべてのものにそれを感じると、私はそう考えている。
 だから、マットペイントに過剰なディテイルは不要であるというふうに考える。それならば幾らでも手は抜けるではないかと捉えるのは違っている。例えば有り得ないと感じたり、納得できない色合い、明るさという部分があったりすると、視線がそこへ走って、どうもおかしいと感じ、引いてはマットペイント全体に疑いの目が掛けられてしまう。
 ということは、そこにおかしいと思わせない程度のディテイル、色合い、明るさなどがあればうまくいくということ。つまりそこにそれらしい色があれば、肉眼は素通りしてしまう。注視する部分と素通りされる部分のバランスが取れたものがマットペイントであるということができる。
 マットペイントに関ってきて凡そ15年で、その経験で半分結論めいたこととして、何故そうなのか、どこに注意をすればいいのか、何を盛り込めばいいのか、どこに何が足りないのかということは、今お話したことをベースに考えを広げていけば自然と結論がでるのではないかと思う。
 マットペイントのことをお話してきたが、フォトリアルの最初の足がかりというのはマットペイントにあるのではないかと思う。

 カメラマップとは
 これは7年前の仕事で、フルCGだが「行ってみたくなるようなどこかのヨーロッパの街」という抽象的な依頼で創ったCM映像。この夜景は、編集用に意図的に明るくしているが、ここではライティング(照明)についての話になる。
 映像の中でリアルというのはどういうことかというと、先ず見えないと話にならない。見えるということとリアルであるということ、この場合、夜は真っ暗で、空撮の夜の映像のように、屋根とか屋上部分というのは上から何も光が来ないので真っ暗というのが普通。一番明るい部分というのは照明に照らされた道路とかネオンサイン。光源の周りが明るいというのが当然だが、それをやってしまうと絵としての説得力、映像としてのリアリティがなくなってしまう。
 そこでどうしたかというと、謎の光というのを良く使う。この場合は月光。月光が屋根のディテイル、ツヤのあるものの上に付着した汚れといったものに反射してこういう風に見えるのではないかというマッピングを施した。
 この時、カメラマップという方法をよく使う。通常のCGではUVWマップというのが一般的。つまりオブジェクトの面に対し直角に貼り付けるというのをやると、ポリゴン(ワイヤーフレームで構成される面)同志の直角に合わさった境界線がものすごくシャープに出てしまい、それがCG独特のリアリティのなさを生むというデメリットになる。それを何とか解消すべく考案された方法がカメラマップで、広範囲のモデルに対し一度に質感を与えられる。
 凸凹した建物の立体、何もディテイルのないものに、カメラの位置からこういう風に見えるべきだというもの、例えば家の形をした真っ白な石膏のミニチュアに対しそれなりの家のディテイルを投影したと思っていただければいいと思う。プロジェクターで単純な面に投影されているにもかかわらず、非常にリアルなものとなる。
 ただし、投影している以上は破綻する場所がある。投影されていない部分は見えないし、影ができているかもしれないし、マッピングが間延びして、真横から見ると映像が細長く引き伸ばされている部分がいたる所にあって、見られたものではない。
 カメラマップというものは、ある位置から限定されたアングルで撮られるのであればうまくいく技法であるということを前提としている。但しマスクを使っていろんな方向から投影することが可能なので、うまくやれば、カメラが周り込んでも非常にリアルなものができる。
 ただし、こういうものにはマッピングを描く以上の力を持った、つまりマットペインター的な力を持つテクスチャを描く人がいないと成立しない。ここが一つのポイントであると思う。立体に投影されたマットペイントであると考えていただければいいと思う。従来のマットペイントにないもの、視点の移動、ライティングがインタラクティブに変わっていけるということが従来の方法ではできなかったが、デジタルならではの方法で実現できるようになったということ。

 綿を使った特撮
 これはシベリアの雪原を空撮したという設定の映像でフルCG。実際、空撮でこういう状況を撮ることは不可能である。資料映像で確認したが、映画「パーフェクトストーム」で救出のヘリコプターを飛ばしているが風が強ければヘリコプターは難しくて、しかも安定して撮れるわけはないので、基本的にはフルCGでやるしかない。その場合の光の設計について、雪原のライティングはどうあるべきなのか、雪原はどういう状況であれば一番それらしく見えるのか、そういったことを考えながら創っていったものである。地面を這うブリザードは綿をフラットベッドスキャナーの上において、上にハイミロンという黒い布を置いて、背景を真っ黒にして、それでスキャニングした素材に手を加えて、2Dで綿の繊維が見えないようにして、そういう素材を幾つも2D上で重ねて、一種のワーピング(ものの形をゆがませる)を使い、ブリザードのように地表をすべるように飛んでいって、ある場所でフェイドアウトしてしまうものを2Dで映像化して、3D上に投影したもの、それがここに出ている地表を這うブリザード。
 それから研究室の煙突から出た暖房の蒸気を綿で表現している。綿を使うというアイデアはILMに行った上杉氏から教わったが、これは意外と使えるアイデア。綿という素材を使ってそれらしい煙の映像を作るとき、例えば20フレーム目には煙の形はこうしたい、その30フレーム後にはこうしたい、その先のこの辺りでは消えてなくしたいという場合、綿を使ったアニメーションによって短い時間でリアルな映像に仕上げることができる。但し、限界があって、入道雲とか雲仙の普賢岳の爆発のようなボリューム感たっぷりの煙というのは綿を使ってはできない。薄い煙、砂煙とか雪煙、水蒸気、向こうが透けて見えるような薄い漂うような煙には綿が向いている。

 アニメの中の実写
 長編アニメ「エバンゲリオン」の中に一部実写シーンがある。走る列車から見た風景で、第三東京市という架空の都市を実写のように創りたいというオーダーで、これは世田谷通りの川崎側、登戸辺りを車上にカメラを据えて35ミリフィルムで撮影した。丁度春霞で遠くまで良く見えていないという状況だったが、その白く写った部分に架空のビルを置きたいという設定だった。これは3Dで街並みを生成した。背景の山並みも写真を撮って貼り付けた。絵の中で3Dのビルを動かし視差を実際以上に出して、現実感を誇張している。

 群衆シミュレーション
 CGをやっていると人間の群衆シミュレーションが気になる方が多数いるが、費用対効果上躊躇することが多い。「アバロン」の空襲シーンで、空撮、俯瞰で、重爆撃ヘリの開口部にカメラを設定して、投下される爆弾をなめつつ下界の様子を描写するというオーダーがあった。プランの段階では人のことは全く考えていなかったが、演出上必要という事でCGキャラクターではなく人物素材撮りで行うことを考えた。ヘリの上からはこういう風に見えるというアングルで素材を撮影するのだが、基本的にはカメラを移動しつつは撮れないので、カメラは固定で、素材を全部距離別に分けて撮影した。地上30mまで伸ばせるはしご車の上から高さを変え、被写体との距離を変更してバリエイション素材を撮っていった。それらを3DCG上で合成して配置し、実際にはカメラの移動があるにもかかわらず、固定した映像でうまくいくのかと思われるかもしれないが、これが非常にうまくいった。
 こういう考えというのは緻密なようでいい加減にみえるが、大きな角度変化を付けて見たときに、大きさの変化、プロポーションの変化があり、もしそれがはっきり分からないような角度変化ならば、その部分は正確に描写しなくてもお客さんは見た気になるという読みがあってやったわけだ。そういうことがチャント判っていると、余計な努力をしなくても望む成果が得られるということ。

 炎のシミュレーション
 カーブを描く炎(太陽のプロミネンス)をどうすればいいか、CG上の炎のシミュレーションは最近随分良くなっているが、最新の技術はいろんな意味合いで使えないので、ハイスピードカメラで素材撮りをした。プロパンのバルブを早いタイミングで開け閉めを繰り返して、それにより炎が踊る状態を16ミリフィルムでハイスピード撮影(12倍)して、それをテレシネ(フィルムからビデオ変換)して、それをキャプチャして素材として使っている。「アフターエフェクツ」のプラグインでいくつかコマとコマを補完するソフトがあり、それを使えば更になじみのいいものになると思う。

 視差が生じるような見せ方
 日本の1950年から2000年までの50年間の変化を40秒間で描くというCM。背景である風景の目まぐるしい変化に、手前の子供達の遊び、ファッションもどんどん変わっていく中で、スポンサー企業は次のことをやっているというテーマのCM。最初はカメラが中心にあって、右方向へ移動するに従ってビルが出来上がって時代が進んでいくようにしたいという要請であった。ところがそれだと奥行き感が出せない。それでは面白くないということで、直径20m位の円形レールの移動車を用意して、カメラは必ず円の中心を見ているという設定で行った。それによってカメラが円周上を移動しながら対象物がどんどん移動して、被写体の位置が円の中心を越えるとカメラの中で動く方向が逆になる。そういった絵的な面白さもあった。せっかく3Dでやるならば視差が生じるような見せ方でないと面白くない。カメラが左へ移動しながら右から対象がフレームインして来て、対象の前後の位置関係が微妙にどんどんずれていっている。基本的にはこれらは全部カメラマップであるが、カメラマップというのがこういったシチュエイションでは一番いい方法だと思う。

 ほのぼのレイクのCM
 現在まで4作つくられているが、最初はアメリカでフグの様なミニチュアのデザインと製作、そのモーションコントロール撮影を行った。アメリカの一流どころのモーションコントロールの仕事振りは大変参考になったが、一方でコストも掛かる手法だった。このモーションコントロール撮影を行うのに、ライティングの条件別に6〜9テイク行うなど撮影期間も1週間かかった。ビルは日本でCGで製作しミニチュアの素材と合成した。
 2回目以降はミニチュアについて各種のテクスチャを撮影済みなので、CGに置き換えるのは大変なことではなかった。その中で、レイク号の水との絡みをどうするか、CGではなく素材撮りで行った。空中のレイク号の表面から滴り落ちるのはベビーパウダーと砂。池から浮き上がった時にボディから滝のように流れ落ちるのもベビーパウダーと砂。
 素材の撮影は、メモリーカムという解像度が横幅500ピクセルで、秒500コマのハイスピード撮影ができるデジタルビデオカメラで行った。白い素材なので黒バックにして絞りはF22〜32と思い切り絞った。視写界深度が浅くなるので、絞りながらもこれだけのコマ数を撮るため、黒いセルテープがあれば煙が出るくらいの大光量を当てている。
 メモリーカムというハイスピードカメラのメリットは、現場で直ぐにプレビューできること、これは非常に助かる。フィルムでハイスピード撮影をやっていたときは、目を閉じて今見た一瞬の動きの反芻を行って最終的にはほぼカンでOK/NGを出していた。ビジコン、ビデオアシストというものもでてきたが、一秒間30フレームのビデオのコマ送りではたかが知れている。ハイスピード撮影は殆ど一瞬で終わるが、眼に止まらない動きをスローにかけてみるので肉眼で見た印象と大きく変わる場合が殆ど。多くの場合は経験でカバーしていたわけだが、デジタル機材を使うとその場で実際に使える素材か否かという判断ができるし、テレシネやデジタイズの手間もコストもかからないので、たとえレンタル料が1日20万円、今、解像度が横幅1280ピクセルにバージョンアップしていて40万円でも、フィルム時代に比べてトータルコストは安くなっている。
 更に素晴らしい点は、カットをかけた瞬間から遡って最新の1000フレームが採集でき、丁度航空機のフライトレコーダーのようにメモリーに循環して記録できるようになっているからだが、これだという決定的な映像が残せて、しかもデータを簡単にHDに取り出し記録できること。

 おわりに
 セミナーは7月25日(金)というSIGGRAPHが始まる直前に開催したため、関係者の多くが渡米で、非常にタイミングが悪かったと反省している。参加者が少なかったわけだが、講演会の後の交流会では講師を囲んで約1時間半、熱い議論が交わされた。「CGソフトありきで、どんな映像が制作できるかというのではなく、必要な映像を実現するためにどうすればいいか、必要ならばソフトも探し、開発もする。」というのが古賀氏の見解で、なるほどと思った。それにしても米英加のソフトが目立つのは何故なのか?
 
(開発推進部  廣田 新)

 

   
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