2004年9月度特別セミナー実施報告
 

SIGGRAPH2004 Computer Animation Festivalに見る
先端映像動向と米国CGスタジオ動向

(9月度特別セミナーより抜粋)
 
 
 2004年8月8日(日)より12日までの5日間、ロスアンゼルス・コンベンションセンターでCGに関する国際的な学会ACM/Siggraph2004が開催された。DCAj においては、例年同学会に参加されている4人の方々をお招きし、それぞれCGに関する映像・ハードウェア・ソフトウェア・技術論文の観点より、映像制作と映像制作技術の先端動向について、その注目点・インパクト・今後の方向等について語っていただいた。今回の報告では、映像クリエイター/ジャーナリストの大口孝之氏による「Computer Animation Festivalに見る先端映像動向について」を取り上げ、報告させていただく。
 
 
1.Computer Animation Festival/個人・学生
 学会の主な内容は、セミナーや、研究者による論文発表、展示会、Computer Animation Festival、Emerging Technologyの展示、ファインアートの展覧会など、様々な催しものがいくつも開催される。特にここ10年は、映画のVFXやアニメーション、ゲーム関係の発表が多い。
 Computer Animation Festivalとは、新作映像の上映会だ。厳選エントリーされた643本から選ばれた31本が、Electronic Theaterと題して大ホールで上映され、その他の53本が小ホールのAnimation Theaterで上映される。このElectronic TheaterとAnimation Theaterを合わせてComputer Animation Festivalと呼んでいる。
 今年はそのComputer Animation Festivalの最優秀賞であるBest Animated ShortにSejong Park氏制作の「Birthday Boy」が選ばれた。Sejong Park氏は36歳の韓国人で、オーストラリアのFilm Television and Radio Schoolの学生である。この学校は、生徒を年間4人しか採らないという非常に狭き門で、その代わり一度入学してしまえば、国が学費や映画の制作費を全面負担しており、作品の品質は非常に高い。Sejong Park氏は初めてCGに取り組んだとは信じられないほど、この作品の完成度は高い。またこの作品はアカデミー賞短編アニメーション賞にもエントリーされる。
 またChris Landreth氏制作の「Ryan」が審査員特別賞を受賞した。この作品は、制作者Chris Landreth氏自身が、かつて活躍したものの現在はアルコール中毒などから作品制作を全く行っていないカナダのアニメーション作家Ryan Larkin氏にインタビューするドキュメンタリー風の映像をアニメーションに置き換えたもの。Chris Landreth氏もRyan Larkin氏も実物そっくりというが、アニメーションの中では顔や体の多くの部分が抜け落ちたようになっている。この表現が辛辣で個人的なインタビュー内容とあいまって、アニメーション、レンダリング方法の新手法の布石となる作品として評価された。この作品は、Copper Heart Entertainmentがプロデュースし、カナダのNFB (National Film Board of Canada)、Seneca College Animation Arts Centerが制作した。8月19〜23日に開催された第10回広島国際アニメーションフェスティバルにおいても木下蓮三賞を受賞している。
 
2.学術研究
 純粋に学術的な作品も上映される。中でも、「スパイダーマン2」に協力し、イメージベースド・ライティングやハイ・ダイナミックレンジ・イメージング(HDRI)技術の生みの親でもある、南カリフォルニア大学(USC Institute for Creative Technology)のPaul Debevecは、SIGGRAPHにおけるスターだ。今年もパルテノン神殿を復元した作品「The Parthenon」を発表している。実際のパルテノン神殿をレーザースキャナーで読み取り、大英博物館に収蔵されている彫刻を加え、イメージベースド・ライティングによって、フォトリアリスティックに復元している。また僅かに残っている顔料から、建設当時の色彩も復元している。
 その他学術研究分野では、NASAによる「エッジ・オブ・ヒストリー」という作品もあった。これは、衛星のセンサーで取り込んだ反射光と放射光の複数の波長を低信号のデータに変換し、ビジュアル化したもの。モーションキャプチャとキーフレーム・アニメーションを合成している。静止気象衛星の雲のデータや、可視光線のデータはロトスコーピングの手法を使って表現されている。
 また、カーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University)のDoug L. Jamesは、バウンディングボリュームを使って、大量の物体の衝突判定を容易にした論文「Output-Sensitive Collision Processing for Reduced-Coordinate Deformable Models」のデモを、アニメーション化して発表した(3601個ものプラスティックの椅子が落下してくる様子をシミュレーションしている)。
 
3.商業作品
 ロサンゼルスという土地柄もあって、CG/VFXプロダクションによる映画のデモも盛んだ。どこも単純にクリップを上映するだけでなく、メイキングを巧みに折り込んで、プロの映像制作者たちにアピールしている。Digital Domainは「デイ・アフター・トゥモロー」とCM作品。PDI/DreamWorksは「シュレック2」(2004)。ESC Entertainmentは「マトリックス・レボリューションズ」(2003)。Weta Digitalは「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」(2003)。ILM(Industrial Light & Magic/Lucas Digital Ltd.)は「パイレーツ・オブ・カリビアン」(2003)と「ヴァン・ヘルシング」(2004)。Tippett Studioは「マトリックス・レボリューションズ」と「ヘルボーイ」(2004)。Sony Pictures Imageworksは「バッドボーイズ2バッド」(2003)、「ホーンテッドマンション」(2003)、「スパイダーマン2」(2004)、そして新作「ポーラー・エクスプレス」(2004)のメイキングまで披露していた。
 今回目立ったのは、「シュレック2」である。ペーパー、コース、スケッチなどのセッションにも多く出ていたが、一つのテーマを多面的に捉えるという今年の傾向が典型化されたPDI/DreamWorksによる「シュレック2」のプレゼンテーションであった。照明ではグローバル・イルミネーション、液体の表現では流体、泡を含んだ液体と空気が二層になっている表現、髪の毛や毛の色々な物体との衝突する表現(冠やベルトなどとの接触)、服のベルベットのような光沢のシェーディング、肌のサブシディアル・スキャッタリング、流体計算を使った炎の表現(前作はポールにノイズ関数を入れただけであったが、今回は流体力学を使っている。実際には四角錘をゆらしているようなイメージ)など新技術満載の映画であった。緻密な絵作りはPDI/DreamWorks独自のもので、アニメーション映画でのライバルPIXARには真似できないと言われている。その差はレンダラーの構造にある。PDI/Dream Worksのレンダラーのポリゴン数には限界がなく、際限なくレンダリングできるようになっているためである。
 Sony Pictures Imageworks制作の「ポーラー・エクスプレス」は、12月にWarner Brosersで公開予定だが、これはトム・ハンクスの企画で、彼が子供に買い与えた絵本「急行北極号」を観て自身が夢中となり、原作者に映画化権の交渉をしたところ、原作者の油絵質感のまま映画にするならという絶対条件を飲んで映画化が始まった。
 セルアニメでやるか、実写合成とするかという事も考えたが、結局、パフォーマンスキャプチャーという新手法を考え出した。これはモーションキャプチャーではないというのが彼らの主張で、この手法ではフェイシャルキャプチャーとモーションキャプチャーを同時に行い、これらのモーションデータからアニメーションの動きを生成している。そのためViconMXの赤外線カメラを200台並べてキャプチャーした。監督のロバート・ゼメキスはこの手法が気に入ってもう実写には戻れないといっているが、実際に次回の制作が9月から始まっているが、同じ手法を使っている。
 ILMの作品集の中の技術では、ライトステージ(2000年に発表)が特筆される。これは人間の肌を計測してCGで再現するもので、レンダーマンのデータをライトステージから取り出すことができる。グローバル・イルミネーション風だが、そうではなくアンビエント・オクルージョンで拡散反射を行っている。顔のアップの場面では効果的に使われている。
 同じくILM作品の中で、「ヴァン・ヘルシング」で使用されていたのは、モーションキャプチャとブルーバック撮影を同時に行う試みである。生身の俳優の顔を撮影するのと同時に、体をキャプチャしてCGに合成している。この際問題になるのは照明である。顔をきれいに撮影しようとするとモーションキャプチャに合わせたライティングができない。そこで従来の再帰性反射テープではなく、発光ダイオードの自己発光するセンサーをつけてマーカーとして使用している。背景は実際にケーブルカムで撮影したものから、クレーンなど不要な部分を消して、マットペイントで埋めている。
 ESC Entertainmentの「マトリックス・レボリューションズ」でのスーパー・パンチのシーンも技術的な工夫が必要であった。これもスケッチでも解説されていたが、観客がよく知っている有名な俳優の顔をCGで違和感なく表現することは技術的に大きな課題である。特にこのシーンでは、有名なキャラクター、エージェント・スミス(俳優はヒューゴ・ウィーヴィング)の顔がアップで、殴られて変形するという場面をCGで作り上げなければならなかった。そのためESCでは、ヒューゴの顔にこぶしを押し当てたり、高速エアノズルから出る蒸気を使ったりして、ディレクターの意図する「虐待されるヒューゴの顔」を研究した。この研究を元に殴られる顔の模型を作り、CG映像制作に使っている。俳優が実際にパンチを受けた表情よりも、うまく変形した形になったと述べていた。
 「スパイダーマン2」と「ロード・オブ・ザ・リング」はキャラクター制作のためにCG技術を革新し、「デイ・アフター・トゥモロー」は、自由の女神が洪水に飲み込まれるシーンや市街地に海水が流れ込むシーンなど流体シミュレーションのVFXが駆使された大作である。「ロード・オブ・ザ・リング」では、地形データからの背景や風景の描き方がセッションでも注目されていた。「スパイダーマン2」は、キャラクター制作に注力して、「人間」の表現を高めようとしており、CGで制作されたシーンのいくつかは実際に俳優が演技しているのではないかと思わされる完成度であった。
 日本の「イノセンス」は、Electronic Theaterで1984年の「バイオセンサー」以来のトップ上映という栄光に浴したが、祭のシークエンスだけを抜き出したものが上映され、メイキングもクレジットも付いておらず、ほとんどの観客は「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」(1995)の続編であることすら気付かない。さらにアメリカではまだ上映されていないこともあり、何が上映されているか観客にわからなかったようだ。もう少し編集方法で工夫があればもっと魅力が出せたかもしれない。
ゲームでは、同じ日本からの出品だった、「鬼武者3」のオープニングムービーが好評だった。この制作では、ミニチュアで作られた背景があって、これをペリスコープカメラという潜望鏡のようなカメラがついたモーションカメラで撮って、ミニチュアの映像をデータとして取り込み、イメージベーズドライティングを施したモーションキャプチャーのキャラクターに陰影をあてるという非常に手間の掛かる方法で制作されている。
 
4.Siggraph2004 Computer Animation Festivalを振り返って
 今年目立ったのは、学生や個人の作品の躍進であった。プロの作品より、学生作品や個人作品の方が強い印象を残した。今年のBest Animated Short (最優秀作品)に選ばれたのは、オーストラリア在住の韓国人学生の作品であったが、その他の学生作品も質の高いものが多く、プロでなくてもしっかりとした作品が作れるようになってきている。
 Animation Theaterを含めるとフランスの学校、Supinfocom(シュパンフォコム)がここ数年圧倒的に多く入っている。また、アメリカのリングリングスクールもSupinfocomと共にSIGGRAPHの顔といってよい。ドイツのFilmakademie Baden-Wuttemberg(フィルムアカデミー・バーデン=ヴィルテンベルグ)も同様で、プロ用の機材、施設を用いて、商業プロダクションとまったく遜色ないレベルで作品制作を行っており、今年も「Annie & Boo」(Imagina2004でグランプリを受賞している作品)、「no limits」など3作品を出品している。この学校は広島国際アニメーションフェスティバルにも、優秀な作品を大量に出している。
 こうした作品の多くには、国が全面的に学費、制作費を出しているという背景がある。Best Animated Shortに選ばれたオーストリアのFilm Television and Radio School、ドイツのFilmakademie Baden-Wuttemberg、フランスのSupinfocomも全面的に学生とその作品制作をバックアップしている。今年Animation Theaterに登場した日本の学生作品は九州大学、吉田学園からの2作品位しかなく、海外にはかなわないと思わざるを得なかった。日本でも学生など若いクリエーターの制作支援の方法を検討すべきであろう。
 
5.米国のアニメは2Dアニメーションから3DCGアニメーションへシフトした
 2Dアニメーションスタジオは、1920年代から30年代に掛けて米国で大量に設立され、Disney Feature Animationというスタジオもその頃に設立された。最初の作品の「白雪姫」は有名だが、1994年に制作した「ライオンキング」が大ヒットし、アニメは儲かるということで、Fox、Warner Brothers、Dream Worksなどが競って2Dアニメスタジオを設立した。しかし殆ど直ぐに撤退した。
 2000年にFoxが閉鎖し、1999年にWarner Brothersが「The Iron Giant」という作品が出来は良かったが興行が良くなかった為か閉鎖し、DreamWorksも「シンドバッド」制作を最後に昨年閉鎖した。Disney Feature Animationも一昨年から世界各地のスタジオ(パリ、フロリダ、東京)を閉鎖し、今年完全に2Dアニメーションスタジオを閉鎖してしまった。
 それに反し、3DCGアニメーションが次々にヒットしていることもあって、3DCGアニメーションスタジオが次々に設立されている。Pixar Animation Studios、PDI/Dream Works、Blue Sky Studioが3大スタジオだが、そこに新たに参入したのがSony Pictures AnimationやLucas Animationである。Sony Pictures Imageworksも今年、新たに3DCGアニメに参入してきたことによって、Sony系列だけで2社存在する。DreamWoks Animationも2Dアニメスタジオを閉鎖後、3DCGアニメーションに参入してきたので、DreamWoks系列も2社となる。Disney(バーバンク)も3DCGアニメーションとして復活してきたので、Disneyのアニメ制作はDisney系とPixar系の2系列となっている。
 Lucas Animationは、元々ILM内でアニメーションをやろうという動きがあって、実際に制作もしたことがあったが、「Star Warsシリーズ」の後、自社企画で3DCGアニメーションを制作することとなり、シンガポールにスタジオが作られ300人のスタッフも集まって動き始めた。配給もUniversalに決まっているようだ。そういう動きに対して、Warner Feature Animationが3DCGアニメーションに新たに参入して来て、「Babe」の監督が南極を舞台にしたアニメを制作している。
 また、PixarとDisneyとの契約では、2005年公開予定の「Cars」の制作が1本残るだけであるが、Disneyのアイズナー会長の後任人事によっては継続もありえるとの観測である。今年のSIGGRAPHでDreamWoksが「シュレック2」でかなり目立った発表を行っていたように、技術的にはPixarを圧倒的に抜き去ったという観測であり、Pixarは現在制作中の「Cars」に大量の開発パワーを投入し、世界初のフォトマップアニメーションとして制作することで巻き返しを図ろうとしている。そして、トロントにCore Digital Picturesがあり、そこの子会社にCore Feature Animationができたが、実はそこがDisneyのサテライトスタジオだ。Pixarとの縁が切れても、3DCGについてはDisneyはちゃんと手を打っているようである。
(編集:企画調査部 廣田 新)
 

 

   
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